第2章 視界から呪いへの鎹
3.
朝だ。上半身を起こして、寝間着のままにやけにだるい身体でふらふらとトイレに向かう。昨晩お酒飲んでないし、風邪っぽい訳じゃない。連勤の疲れかなぁ、ゆっくり眠っていたかったかも。
……今日はお昼に変人とのお食事回かぁ。
用を足しながらもお腹から空腹を訴える音。でも、朝からどか食いしたら太るよなぁ……。トイレから洗面所に向かう。
──違和感。
歯磨きしながら、鏡に移る自分を覗き込む。鏡に写った私が睨むように、歯磨きしながらずっと視線が合っている。視線はやがて顔よりも髪へと移っていく。
あれ?白髪めっちゃ増えてない?メッシュは2箇所入れたけれどさ、地毛の部分…昨日よりもめちゃくちゃ白いの増えてる気がする。普通、白髪って生えてくる時に白いのが出てくるじゃん、生えてくるじゃん。グラデーションっぽくなってきたりとか、毛が抜けて生え変わりの時とかにさ。なんで?
歯ブラシを持ったまま、口にミント風味の泡を吹いた状態で、私は様々な角度から覗き込む。片手で掴んで持ち上げ、ぱらぱらと重力に従って落ちていく亜麻色の中に素麺みたいな白。
『……、』
ひょっとして。ひょっとしなくてもまずいのでは無いだろうか?
シャカ、シャカ…と動かし、歯磨きしてる場合じゃないな、と冷静になって口を洗いで、さっさと洗顔も済ませる。
タオルで水滴を拭った後でも変わらない。寝ぼけていたわけじゃなくて……これは夢じゃない。髪を手ぐしで一度梳いて手の中でじっと見る。ほぼ、茶色の中にスゥ…とその中の1本が白くなる現象。
『えっ…、』
根元の方側から白くなり、固まる私にだから腹減ってるって、とまたお腹がぐうぅ、と主張した。
驚いた。ちょっとショックもあるけれど、このまま全部白くなるなら、やっぱり一気に染めれば良かったかも知れない。まだらだと恥ずかしいんだけれど。どうせならメッシュみたいに固まって欲しかったな。
深皿にシャラララ…とシリアルを入れて、牛乳を掛ける。父は長距離ドライバー…仕事に行ってるみたいだ。
これ、食べたら洗濯と掃除して、ゆっくりとしてから昨日の所に行こう。私の母の旧姓とか気にしてたけれど一体なんだろう?多分珍しいわけじゃないだろうし。春日って名字……知らないし。両親ともに辿っていけば居るかも知れないけれど。