第2章 視界から呪いへの鎹
携帯のチェックして、洗濯機が止まったら洗濯物干して、掃除して…片付けて。
気が付けば時計は10時半。
『……別にデートってわけじゃない、ていうか恋人ですらないし。何かの聞き込み?みたいなモンだし…、』
色々、クローゼットから引っ張り出した所で正気になって、結局着たのはタンスの中にしまい込んでる普通の格好。
食事のメニューは昨日見てる、ランチを摂るならお腹が減ったくらいが良いよね。
玄関を出て、鍵を掛ける。振り返ってブーツをコッコッ、と鳴らして徒歩であのカフェへと歩みだした。
交差点、信号機……広い歩道で待って、横断歩道を渡って。
しばらく歩いて、遠くに見えてくるのは昨日のカフェだ、……とその店の前に待っているのは白髪の長身の人。自転車停めに腰を乗せてこっちにはまだ気が付いていない。
なんか変なのに関わっちゃったかなぁ、と思いながら少しだけスピードを早めた時だった。
ぐらり、と視界が歪む。躓いたんじゃなくって貧血みたいな…力が吸い取られるように、一瞬の脱力感。
なんで?朝から体調は良かったハズなのに、出先で急に来るわけ?
コッ、カカ、と自分の脚がもつれる私のブーツの音が聴こえた。
やばいやばい、絶対いつもの体調不良よりもヤバイやつだ。朝のだるさは予兆だったのかもしれない。めまいがこんなに酷いのは異常だと思う。行くべき場所はカフェじゃなくて病院だったかも。
脳裏にふと浮かぶ、白髪になった母の笑顔。別に私が死ぬわけじゃないのに思い出してしまった。
『……っ』
「おっと、大丈夫?」
地べたに倒れる寸前、風を感じ、誰かに支えられた。
ぼんやりと瞳に移るのは黒と白。グニャグニャしてるけれど配色パターンからして何となく思った人物の名前を呼んだ。
……別に、親しい訳じゃないんだけれど。
『悟、さん…?』
「ん、そうだよ。キミ、今…立てる?」
歪みは落ち着き、通常の視界に戻っていく。二の腕辺りを掴まれて支え直され、そこで私はようやくまともに立てるようになった。
周囲の、心配そうな表情をして通り過ぎていく人や何もなかったって顔で通り過ぎていく人。その人達をキョロキョロ見渡して、支えるその人を見る。
今日は目隠し状態での黒尽くめ。口元はヘラヘラとはしていなかった。