第33章 これは終わりではなく始まりの刻
哀れみの視線を悟から私へと向ける歌姫。言いたいことは分かってるよ、考えている通り苦労していますとも。ただ、これでもまだ無害な方だから良いんだけどさ?
食料品売り場は何事も(呪いを数体祓い)なく、またこの流れでホームセンターにも立ち寄ったけれどもそこでも特に問題は無く。
車に乗り、普段から必ずといって呪いが見えるとも限らないマリアの行動に沿う為、何が原因が分からないから二週間に一度通うガソリンスタンドに寄っても、店舗も通り道にもなんの異常も感じられなかった。
本当にどこであんな呪いを受けたんだか……。
初日である今日は収穫なしかな。とはいってもまだ春日家に行って帰る所までが調査なんだけど。
人の多い場所から自然の多い方向へと向かいながらだんだんと静かになっていく車内。
『朝とか時間帯なのかなあ……、』
「それか春日家までのこの道の途中って事でしょうね。自然の中って事はある程度特定はしやすいかもだけど…」
後部座席でどう思います?と意見を出し合う中で速度を落とし脇道……、一本道の突き当りにある、春日の本家へと繋がる道へと差し掛かる。
「……まあ、初日で尻尾を掴めるとは思ってないよ、こういうのは何度か調査してようやく見つけるもんだ。特定量の呪力でないと見えないほどの呪い……、マリア、キミはいつ、どこで呪いを受けたんだろうねえ…?」
悟は助手席ドアの閉められた窓の縁に肘をついて退屈そうにしている。そんな悟の言葉にマリアは運転をしながらいつもの調子で淡々と答えていた。
「さあ、私にも心当たりが無くさっぱりです。気が付けばこうなっていた、といいますか……私は家入さんのように術式での治療をするわけでもありませんし、呪いを祓えるタイプの術式を持っているわけでもないので、居そうな場所には基本、近付く事もありませんし……。
あと少しの間ですが皆様、宜しくお願いしますね」
悟だけが元気よく「はーい!」と返事をする中で、直進先である春日家に向かっている車両。
両隣は雑木林。祖母が居なくなってからは本家を呪いから隠す事が出来ず晒したまま。それでも引き込まれるような、本家の人間が居ないんじゃ近付く理由が無いってもんで。
見かけても私がこの道の上で初めて奇跡的に祓えた、普通に野良の呪いが居るくらい。その低級の呪いを見た歌姫も「……あれじゃないわね」と小さく首を振っていた。