第33章 これは終わりではなく始まりの刻
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いつも通りに…というわけでマリアには特にこちらから何をしろ、など細かい指示も無く、高専から帰るまでに買い物に行く……という事で日常的に利用しているという店舗へ向かってる。
運転するのはもちろんマリアが。助手席には悟が乗り込み、後部座席には私と歌姫でそれぞれが窓から外へと視線を向けているけれど……。
流れていく景色の中、見えるものは非術師の営みの中の影。例えば、建物と間とかゴミ箱だとか、電柱などにしがみついている人の形すら為していない低級の呪い達。
「……居ても低級程度ね」
『同じく』
「まー、車での走行中にわざわざマリアにロックオンして呪いを掛けるなんてそうは居ないっしょ!ダッシュババアじゃない限りさ」
「都市伝説の妖怪ハントに来たわけじゃないわよっ」
あはははー、と笑う悟を背後から座席に向かってバコン、と殴る歌姫。無限までは届かず揺れただけの座席。そんな歌姫に横顔をこっちに見せながら「前の座席を殴る蹴るはしないで下さーい」と映画館の注意みたいな事を言ってる。
街中の呪いは確かに呪術師だけじゃ祓い切れないものだし、強力なものであれば調査後、優先的に祓われていく所だけれど、こうして見かけるのはよく見る低級のもの。地縛タイプじゃなく徘徊してるんなら別として、見かける呪いには徐々に体内を痛めつけるような強い呪いを持つものはいないようで。
……まあ、まだ付き添って序盤の移動中だし、一日で原因を特定出来るなんて思わないし?今日含め何回かこうやって付き添い、その中で現れる特定の呪いを探していかないと。
駐車場に停車した後も気を付けて見回し、買い物に立ち寄った場所もマリアの側を離れずに行動を共にした。私と歌姫はしっかりとまるでSPのように確認していた中、悟は悟で呑気に買い物かごをぶら下げフンフンと鼻歌交じりに食材を入れてる。
「ハルカー、今日グラタンでいい?」
『あーうん……ちょっと待って?そこ、普通に買い物してんじゃないの!』
フリーダム過ぎて歌姫だけじゃなくマリアも若干引いてるわ。
注意されてまた小鳥みたいに尖らせた口。文句言うぞ、絶対言うぞ、ほら言うぞ?片手にエリンギのパックを手にした悟がそのまま籠にがさ、とひとつ入れてしめじのパックもひとつ籠に入れてる。
「マリアを家に届けたら高専に帰るでしょ?こっちの部屋にマカロニあったっけ?」