第33章 これは終わりではなく始まりの刻
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ひとまずはマリアの提案を受け入れたのは良いけれど。彼女の日常的な行動に付き添う、それを行動に移すとなれば高専の外に出るって事だからそんな勝手な行動は許されない私。これには悟の承諾が必要ってわけなんだよね。
で、ただ承諾を得る事自体が難しいだろうし、それにいいよって言葉をただ貰うんじゃなくて、そこには悟も一緒に同行して貰えればこの場合は一番良い方法なんじゃないのかな、と考えていた。
医務室で女三人集まって作戦会議をし、歌姫はとても嫌そうではあったけれど「ストッパーのハルカが居るならあの止めきれぬ暴走機関車はいくらか歯止めがかかるか…」と妥協をしてくれた。
のんびりとお茶を飲みながら、きっと医務室に突撃してくるだろう悟を待っていれば突然のコン、コッコ、コンコンというどこかで聞いた事のあるリズミカルなノック音。
出たな、権利上名状し難しダブルヒロインの妹の幼少期ミュージカル。
「ハルカ~!」
ドア越しの愉快な声色。まずい、このままでは雪だるま制作のお誘いが来てしまう。キャンセルだキャンセル、こっちから出向きましょう。
椅子を立ち上がり、ツカツカとドアの前に進む。「雪、」まで悟が言った所でガラッ、と私により開け放たれたドア。悟によるエアノックが空を叩いた瞬間だった。
『……そのやりとり、させねえかんな?某ネズミは厳しいんだ』
ノックの手のまんま、任務に行った格好をした悟が雪だるまのお誘いが出来なくて拗ね、速攻ひょっとこのお面の如く口を尖らせた。
「ケチー!てか部屋の外出るなら書き置きくらい残しといてよっ!めっちゃ探したじゃん!枕のしたとかバスマットの下とか!畳んだタオルの間とかっ!あの子のスカートの中とか!」
なんだそれ、私は石の裏に張り付く虫か?ポケモンでもねえんだけど?あれか?ピカ虫ってか?
あ゙あん?と彼を少し睨みつつ、ドア前から一歩私は下がる。さっさと悟に医務室に入って貰って話を進めたいからさあ…。手で来い、と招きながら顎で室内へとしゃくった。
『ンなとこいるか、私は虫じゃねえんだぞ?……ほら、中入って』
口を尖らせてた悟が中を見た瞬間ににぱっ!と口元に笑みを浮かべる。なんかくだらん事企んでるな…?
両拳を顎下に持っていき、顔を左右に小刻みに震えるように振る悟。逆立てた髪がファサファサいってる。