第33章 これは終わりではなく始まりの刻
それは初耳だ、とマリアを向けば彼女は頷く。
そんな彼女の腹部をじーっと集中して見てみれば僅かに見える、渦巻くような禍々しい残穢。だいたいさっき私が治した箇所に留まっている。歌姫がさっきいった、微量な呪い。これが毒のようにゆっくりとマリアを蝕んでいる原因……。
呪術を使った後に残る残穢に似てるけれどこれが呪われた後とするなら、悟ならばこれがどういう風に見えるのかな…。
マリアの腹部を観察するのを止めて、私は歌姫の顔を見上げた。
『じゃあ、龍太郎と行動を共にするのとかは安全じゃないですか?確か彼は呪具持ってましたし対応が出来るはずですよね…?
家にも居て、補助監督生とは行かずとも"窓"として高専に協力してるんですもん』
リベルタの地下に着いて来ていたし。マリアがあまり見えないのならば一緒に居てあげる事の多い彼が側にいれば呪いを避けられる。対抗や、もしもに応援を呼べる。
なんとも言いにくいような、表情で歌姫は「あー…」と言葉を濁す。こっちも何か訳ありみたいだな……。
「龍太郎についてもマリアと同程度ね。マリアよりは見える方だけど。禪院家から遠く、そして春日の分家となると見える方が稀みたいよ?」
その歌姫の言葉を聞いて私は肩を落として俯いた。
龍太郎もマリアも私は詳しいことは知らない。いや、ふたりの関係がイイ感じという事は知っていたけれど深く踏み込んで関係を壊してはいけないかな、と思ってたけれど……。
マリアは自身の体が呪われた事を全然話してくれなかった、それ以前に呪術を使えるからと、リベルタに捕まり縛りをしていたから、見えるのが当たり前だって思ってた。
龍太郎だって、呪術は使えなくても窓であるから普通に見えるんだって……。
『……全然知らんかった…』
「そもそも活動区域が東京と京都で違いますから仕方ないでしょう。
それよりもハルカによって治された今、治せる手段がある状態で呪いの元凶を調べたいのですが……」
マリアの言葉を聞いて私と歌姫は一度顔を見合わせる。静かにマリアの頼み事に耳を傾け、その彼女の頼みを了承する事にした。