第33章 これは終わりではなく始まりの刻
どこが悪いか、とかまだ聞いていないけれど。マリアは小さく頷いた後にゆっくりと唇を開く。
その声はいつもよりも少しばかり弱々しく。
「ハルカの場合はリベルタでの事もあり、吸い取った"負"がどこのものかが分かるはずです」
『……うん…、確かにそうなんですけど…』
含みが有る言い方……とマリアに触れて直ぐに彼女から吸い取ったものを理解する。
私自身が味わうのではなく、こういった怪我や病があったな、という記憶を思い出すようなもの。さっきまで抱えていたマリアの痛みは、よく"その程度"の表情で誤魔化せたなという程のもの。
それは表面上に現れる怪我ではない。病であればこのようなものを私自身患った事がない。思わず目を見開き、マリアの胸元や腹部を上下に視線で見てしまったほど。
『えっ、今は痛みませんか!?』
「ええ、今は全く。ですが呪われた気配は去りませんね…」
『呪われ…て…?』
蠢く呪いの姿ではなく、呪いによって捻られるような臓器を痛みをマリアは感じてたって事か……。
こくこくと頷くマリアを歌姫が見て、私の座るデスクに寄り掛かってる。
「基本、この子は現場に出てないんだけどね、どっかで呪われたみたいなのよ。何度解呪してもいつの間にか呪われてるの。微量な呪いなのにやたらとねちっこく、毒みたいにね……」
『行動範囲は…?その範囲内に呪霊が潜んでたとかそういう可能性は……?』
例えば買い出し先とか。
お気に入りの買い物先とかに呪霊が居て、マリアに呪いを掛けた、とか……。
だったら呪い避けとか呪符でその区間をやり過ごせるよなあ……。
マリアをじっと見れば彼女は首を振る。
「……そもそも、体調を崩し始めてからは遠出はしませんし行く場所は限られてます」
『呪いの目の前を通り過ぎる、とかも無いですもんね……だったら危険な方向に行かないだろうし』
私とマリアがやり取りしていれば「ちょっと、」と話に割り込む歌姫。
「マリアはあまり呪いが見えないのよ、っていうかある程度の強い呪力を持ってる呪いなら見えんの。知らなかったの?」
『えっ、そうなんです?』