第33章 これは終わりではなく始まりの刻
319.
京都へと新幹線は到着し、東京から高専に着くまでにデート感覚でベタベタとしていた悟は荷物整理を手伝った後、とても残念そうに「じゃあ任務行ってくるよお……」と見えない耳と尻尾を垂れ下げてる白いポメラニアン状態で。
仕方ないな……、と少しでもエンジンを掛けてあげる為に両手を広げて「ん!」と顎でシャクってさ。
……いつもの、いってらっしゃいって彼を送り出そうとしたのだけれど。首を傾げてる悟は頭にクエスチョンマークを浮かべてる顔をしてる。
「……えっ、なに?アリクイの威嚇のポーズかな?」
『エッ…別に威嚇してないんだけど……?』
きょとんとする悟。あれ、いつものやらんのか?と私はちょっとだけ口を窄め、玄関で靴を片方履いた彼を見上げた。
"いつもの"で通用するくらい毎日欠かさずしてるこれを忘れるとは相当疲れてるのでは……?もはや彼のルーティンじゃん、悟が出掛ける・帰宅っつったらこれじゃん。それを初めて知った文化みたいに扱われても。
ゆるゆると広げた手を降ろしつつある私。自信っていうか、もしかしてこのルーティンはもうやらないって話なのかな…?と私も(悟ほどじゃないけど)少し気に入ってた、この二人だけの触れ合いの中止かもしれないって事が残念に思えてくる。
『ほら、行ってきます、のちゅう……だけど…。要らなかった…?』
せめて今だけでもしたかったな……なんて。
とたんに悟の背後に桜でも散らす勢いで空気が変わり、その不思議そうだった口元がご機嫌に笑う。アイマスクの下はきっと、瞳を細めてるんだろうなって簡単に想像出来ちゃう程に口元だけで嬉しさが曝け出されていた。
「~~するっ!そうそう、そうだよね、これがなきゃ任務なんてやってけないよね~!最高の呪い、いや…お呪い(まじない)だよねーっ!」
せっかく履いた靴をお行儀悪くゴン、と背後に脱ぎ飛ばし、ドアにぶつけるように勢いよく脱いだ悟。
すぐさま部屋の中の短い廊下に居る私の所にやって来ては私の背に片腕を、もう片手は頬を擦る。にっこりと半月みたいな唇が笑ってて、頬を少しの間さらさらと撫でられて。
「じゃあ、行ってきます」
『うん、いってらっしゃい』