第33章 これは終わりではなく始まりの刻
あれ、食べられる…?
いつの間にか以前のように普通に食事が出来るように戻っていた私。
それまでは匂いと胃がリンクしたみたいな吐き気が一日に何度かランダムエンカウントし、頭痛やだるさで喋りたくない究極の日もあった。
ずっと寝てたいと思うのにそれでも頑張って起きて暖かく着込んで、出来る範囲の事をして。仕事から帰ってきた悟が「僕がやっとくよー」と片付けてくれた時は申し訳なくて。
出来ることが出来ないというやるせなさ。自分に情けなくなってちょっと泣いた日もあったよ。
きっと今だけ、これはいつかは収まる……その待ち侘びた悪阻が収まったんだ…!
私が食べてはいけないものを避けて食事を作り、任務から帰ってきた悟はそれを喜んでくれて一緒に食べてくれる。そしてお土産に買ってきた!というデザートを食べて。
また、彼が夕食を作る前に間に合えば一緒にご飯を作って……と以前と変わりない生活。普通に食べられている事に気付いた悟は「最近食べられるようになったの?これも食べれる?じゃあこれも食べて?はい、あーん」と、硝子の言う通り餌付けはされている。されているからって事細かに食べさせあったりしてる生活を話したくないけれど。恥ずかしいし。
……ただ、その硝子の心配は昨日の朝までの問題。
硝子以外の人間に注意されたか、それともヘンゼルとグレーテルでも思い浮かべたのか。昨日になって突然、夕飯をもりもり食べていた私を見た真顔の悟に「食いすぎたら駄目でしょ!」と保護者視点での注意。だから昨日の朝で餌付けルートは終わりを迎え夕食からスパルタコースにレールが切り替わっていた。
多分、今日の夕ご飯にコンビニスイーツはナシだと思う。残念…。
現実の目の前に居る、エコー写真を手にした硝子へと意識を戻し、悟とのやり取りを思い出しながらへへ…、と笑う。
『……急に食いすぎるな、とがっつくヘンゼルを心配するグレーテル状態になってきたんで、食べすぎは回避してますよ』
「へー、あの五条がねえー…?急激な変化というかいい意味での変態というか。さてはハルカ……何か、アイツに盛った?」
にやり、と笑いながら写真を私に返却してからかう硝子。そんな盛る薬品なんてないし、そこまでしたいほどの殺意もないし。