第33章 これは終わりではなく始まりの刻
315.裏
彼に引き寄せた手はそのままに、悟のもう片手が私の太ももに触れる。ストッキング沿いにさらさらとした感触を楽しんでるような悟はくす、と笑った。
その彼が触れている、ぞくぞくとする場所から顔を上げて未だに教師モードを貫く悟はアイマスクをしたままににこ、と口角を上げ笑みを浮かべていた。
『さと、』
私が名前を言い切る前に引き寄せる手でも、脚に触れる手でもなく押し迫る彼の上半身。唇をかぷ、と彼の唇で塞がれる。それは言葉を奪うようにほんの数秒だけ。すぐに離れて至近距離で微笑んでいる彼。
「……駄目だろ?先生の事を名前で呼んじゃ……。そういうイケナイ子には生徒指導しないといけないんだけど?」
『その、間違って名前をさ、つい……ね?"先生"』
へら、と隣で覗き込むように顔を近付けている悟に笑う。彼は私の言葉を聞いて口をへの字口にして文句を零す。それはなんていうか、本当に教師をしている時みたいな言葉を並べていてさ。
「つい、じゃあ駄目じゃん。先生と生徒は立場が違うんだ……ほら、生徒指導だから先生の言うことをちゃんと利きな?まず、話をしてる人の目、ちゃーんと見て?」
視線を伏せがちというよりもアイマスクをしているから、視線が合わないからこそ目よりも彼の感情が分かる口元を見ていたのだけれど。
目というか、全くもって眉も瞳も覆い隠して見えなくしている黒い布へと、口元から数センチ上へと視線を上げた。
……アイマスク、取ればしっかり視線が合うのにな。頑なに"教師として"ってその表情の多くを覆い隠す布を取らない彼。
いつもと変わらない姿の悟は、私の太ももを触れていた手を退かし私の唇へ指先を着ける。優しくむにって、唇から感じる指の熱。
「お顔もお耳も桃色に染め上げちゃって……僕の事、誘ってるのかな?最近のヤンキーは年上を舐めて掛かってんだから……」
私の唇から指が離れた後に、目の前で笑う彼のその手はすぐに制服の上から胸を優しく鷲掴む。
ちゃんと力加減されていて決して痛いわけじゃないけれど、その彼の手をこの教師と生徒の関係で進めていく事に躊躇い、退かそうと私は両手で彼の手を掴んだ。
いつも愛してくれて…そして優しいその手を離そうとしたけど、一度胸を離した後に再び元の位置に戻った手。太ももから興味はこちらへ。むにむにと優しく揉む彼の五本の指。