第33章 これは終わりではなく始まりの刻
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片付けもほどほどに進めながら、気が付けば差し込む外からの明かりは少しずつオレンジ色になっていた事に立ち止まって窓辺で空を見上げた。夕方も近づけばそろそろ悟も速攻残った任務を終わらせ、すっ飛んでくるように帰ってくる。元気に振る舞いながらも疲れているであろう、彼が帰る前に夕飯の仕込みをしよう、と支度を始めた。
出来るだけ物事は一緒にやっていきたい。ひとりに負担をさせないようにという事。普段の言動や態度を知っているなら一方にやらせとけ!ってタイプかと思ったのに、家事すらも愛おしそうに楽しむ彼。でも…。
だって、この期間が学生だったら休み、私の場合社会人として近々雇用されるのだけど私が働き出すまでのこの休暇ってさあ……。
仕事に入る前の準備期間って言ってもさ?任務に行ってる悟の帰りを待ち、そこから一緒に夕飯を作るからって悟が帰るのを待つのもためらってしまって。
要するに、彼が帰ってきた時にご飯が出来た状態にするか、もしくはもうすぐで出来上がるってくらいにして、良い妻でありたい!っていう思いといいますか。疲れているであろう悟の負担を部屋で重ねたくない。少しでも減らしたいんだよね、私。
ぐつぐつと煮物を煮込みながら、もうひとつのコンロで作って出来上がったばかりの根菜の金平を皿に盛っていると玄関で彼の気配がする。戸締まりしてるからね、悟が鍵を開けてんな?ついに帰ってきたんだ。
迎えに行こうとコンロの火を止めて、玄関へと小走りで向かった。
割と短めな廊下の途中、目の前でドアを開けて元気そうなアイマスクの男の帰宅の姿。両手を広げ満面の笑みの悟、狂った声量で部屋へと叫んだ。
「ばばーん!高専の任務より、来たれ。残業の世界から離脱するスパダリな五条悟きゅんよ!」
『帰って早々に患ってんね~?呪いでも頭に受けた?』
一瞬帳でも降ろすの?と思ったけれどこれは帳ではございません。中学生くらいによくある患うヤツですね、と悟を見上げるとニコニコした彼は「正常運転さ!」と白い歯を見せ、サムズアップしながらに今の発言を誤ちでないと自ら肯定してる。
っへー…元より患ってるんか。
いそいそと靴を脱ぎ、はっとした様子でくるりと玄関側を向いて靴を並べる悟。振り返りながら立ち上がった彼は随分と誇らしげな顔をして、ロムルスの立ち絵の如く人文字で"Y"を示すように両手を広げてる。