第5章 "好き"が止まらない!
言うだけ言ってトンズラしていった悟。隣の家入を見ると酷く苛ついていそうで片手に握り拳があった。怖いな、怒らせたらいけないタイプだと思わず半歩避けておく。
そんな家入ははあ、と大きなため息をついて、書類を一枚取り出すと机に置いた。ああ、書かないとね…アルバイト代出るしね、治療したし。
ペンを握った所で家入が口を開いた。
「あっちの行動力馬鹿が3日後に延ばすのは珍しいな…」
『(こっちの行動馬鹿は私か…)明日は悟が用事があるらしいです。明後日は私の友人のお誘いで……その、人数合わせだと思うんですけれど合コンに…行ってこようって』
私はペンを走らせていた手を止めた。
「いいのか?ハルカ、五条が好きだったんじゃないのか?」
ギッ、と言う音。デスクに家入が寄り掛かっている。
私はまたペンを走らせて、数箇所チェックを入れてまた止めた。集中が出来ないから。
ただ視線は書類に向けたままで口だけを動かした。
『だって一方的じゃあ意味無いですもん。長く引き摺って苦しむなら、他の出会いで埋めてくれれば悟への気持ちも消えるんじゃないかなーって』
人体の腹部の部分に丸を付けて書き込む。医術についてはさっぱりだからもしかしたら後々私は医療関連の知識も入れないといけないかもだな…。
家入を見れば腕を組んでいて声を潜めて私に言う。
「……その件については悟には?」
『言うわけが無いですよ、だって言ったら面白がって邪魔しに来るでしょうし。場所も時間も言っていませんよ』
「……そっか。で、ここは私が書き込んでおく。
全く…人生何が起こるか分からないもんだな…」
確かに何が起こるか分からない。最近の大きすぎる変化に夢なんじゃないかってくらいに驚いている。椅子から立ち上がって制服を直す。デザインはちょっと……と、思っていたけれど意外と悟にしてはセンスが良い気がしてきたし。
うんうん頷いて"ホントですね"と私は家入に返した。