第32章 御三家
ここはこの場に合わせて隠語を使えば良いものを、マーライオンとは言わずにモロに……しかも想像力を掻き立てそうな具材の説明をして話してしまった悟。結構な声量で。
追加するように私は『あと声量落とせや』と注意しといた。空気が読めないのは諦めだ、彼にはきっと一生読めぬ。
とんとん、と野薔薇に小突かれて振り向く。真顔の彼女。
「あんたも声量な?」
『……ハイ、スミマセン…』
怒られてしょげる中、ほぼ沈黙に包まれた席で爆笑してるのはただ一名。
「わはははははは!」
……すっげえなあ、ここまでツボってる真希は初めてみたんですけれど。直哉に何されたんだろ……。いい気味だ、と言葉を時折漏らしながら腹を抱えたままに笑ってる真希。
ちら、と一年の座る並びを見れば燃え尽きたような顔してる野薔薇、やっちまった、と言わんばかりの伏黒、悲しそうな視線で鉄板を眺める虎杖……。楽しい焼き肉バイキングがお通夜になっちまったじゃねえか。
すっ、と悟が見える位置まで覗き込む。彼は今、オフとしてサングラスを掛けているから視線が合った瞬間からにっこりと笑ってるんだけど。
『和気藹々としていたバイキングの席が一気にお通夜化して台無しじゃねえか、悟、ハウス(帰る)する??』
「え、やだよ、寂しいじゃん。自重するから堪忍して??」
お通夜みたいになった(真希は爆笑してるから除く)私達のテーブル席に「お待たせしましたー」と続々運ばれてくる生肉やらサラダ。
調子にのってドカドカ注文してるけれど、これこのテンションで食べ切れる?……食べ切れる、よね…ウン。
「と、とりあえず、お通夜みたいになったけど、お疲れ様会?始めよっか…」
「……ッスね、始めましょう」
爆笑する真希以外がほぼ沈黙する中、乙骨と伏黒が取り仕切りこの一年のお疲れ様会がスタートしたのでした…。