第32章 御三家
「遅刻グセのある五条悟からの指摘にゃ敵わんな!」
「そんなに遅刻してるかなあ…?ねえ恵ー、僕そんなに遅刻してないよね?」
「そろそろ自覚して下さい」
自覚あるハズなのに遅刻してる事実が無いフリしてら。とツーブロックの後頭部をサリサリ触って唇を小鳥のように尖らせている彼を見てると、その悟よりも遅刻している禪院家の人間が来ないと始まらないのは事実のようで。
禪院家現当主、禪院直毘人。直毘人は指先で顎を撫で撫でながら何か考えている。
「……しかし遅ぇな…、ここに来る前には見かけたし敷地内には居るのは確かなんだが……まあ大方長電話でもしてんだろうよ。とりあえずこのまま茶でも飲んで待ってやってくれ、十分経っても来ないなら引きずってでも参加させる」
禪院家の女性がおぼんに湯呑を乗せてやってきては、それぞれの人物の前に置いていく。
その直哉が来るまでに少し時間があるというなら今のうちにトイレに行きたい、かな。と隣の悟を向いた。車が到着してすぐにこっちに来たからね。行きたくても行けなかったんだよ。
指先でつつこうとしたけれど、私が向いたタイミングで彼がこっちを向いたので丁度良かった。ばち、と視線が合ったから直ぐに微笑む悟。
小声で、かつ口に手を添えてこっそりと耳打ちスタイルを取ると、悟も体を傾けてこっちに耳を貸してくれた。
『今のうちトイレ行ってきても良い?』
「ん、いいけど場所分かる?さっき来た通路、最初の分岐左の突き当りなんだけど。時間あるなら僕一緒に行くよ?付いていこうか?」
ふたり揃って連れションってのもどうかなあ、と思うんですが。トイレ程度でそう何かされるわけでも無いだろうし。御三家会議で何かあったら真っ先に禪院家が疑われる、そんな状態でちょっかいは出さない、そこまで馬鹿な事をしないと思うし最悪自分の身は自分で守る。
ちょっとだけ心配そうな眉をした彼を見上げて小さく首を横に振っておく。その必要は無いって。
「……本当?大丈夫?」
ゆっくりと立ち上がり、うんと頷いて。声は小さく彼にだけ聴こえるように囁いた。
『すぐ戻るね、十分も掛からないから』
「……早ひりうんこ?変に頑張ると出口痛めるよ?」
『ばっか、余計な心配しないのっ、うんこじゃねえよ、小声でも言わせんな恥ずかしい!』