第31章 灰色の日々
「え?僕に飲めって?」
「あんたのじゃねえよ、ハルカの話聞いてた?」
「僕ノンアルが良いなー!」
「……その耳は飾りか?」
にこにことしながら袋を覗くのを止めた悟。手に下げた硝子へのお土産がガサッ、と音を立てて重そうなのが見てて分かる。テンション高めな悟はどうやら耳から脳に多くの情報が届いていないらしい。いつもの事だけど。
『駄目ですね、歌姫さん。言葉が通じてないです』
「……いつもの事よ、大して気にしてないからハルカが分かっていれば良し……、って事で硝子に渡すようにそこの頭花畑男に伝えてね?」
『了解です!』
敬礼するように彼女に頷くと如何にも諦めています、という表情の歌姫が「言っても無駄かもだけど、硝子に飲みすぎないように!って言っておいて」と伝言を預かり、私の肩をたんっ!と彼女は片手で叩く。
にか!と元気な笑みを浮かべた歌姫。
「ハルカも無茶は禁物ね!馬鹿も帰ってきたんだしいくらかは安心でしょ。無理せず何だって手伝って貰いなさい!」
うんうん、と頷いてその私の荷物を持ってる三週間音信不通マンを横目に。
『次、連絡するのを忘れたってやらかしたら私、京都に来ますねー。二週間と言わず、ずっとこっちに居られるかってくらいに』
「はぁっ!?」
慌てる悟にその様子を見てクスクスと楽しげに笑う歌姫。悟は私の視界に覗き込むように入ってきましたよ。
「え、まってそれ本気じゃないよね?」
「そうね~、そうなったら私達は大歓迎よ?怪我も即治るし、私も学生達も一緒に居て良い刺激になるし。なによりもそこのおまけも居ないだろうし~?」
「おまけって何!?」
新幹線にそろそろ乗ろう。悟も騒ぎ出したし。
歌姫にぺこり、と頭を下げ手を振られたので軽く振り直して、文句を言ってる彼の脇腹を指で突いて乗車を促した。
足取りの重い悟の服を掴み中へと引っ張れば仕方なさそうに乗る悟。チケットを見れば前から三番目の席ね……と札を見ながらゆっくり進んで、私達が座る席までやってきて。
荷物を上に乗せる悟にありがと、とお礼を言って、彼と一緒に並んで座った。