第31章 灰色の日々
顔を上げ、悟の顔をじっと見て首を振る。ちょっと、これ、本気で無理です。
携帯を取り出し、何でも良い、文字を打てる所…っ!と検索欄にダダダダ、と打ち込もうと焦る。その中で悟は物悲しそうな声色でしょぼくれていた。
「ハルカも赤ちゃんも守ろうって息巻いてたけど、僕がやったのって近からず遠からずで結局はオマエの事を守る事が出来てなかったんだ。
こうして、京都に居る事すら知らなかった。オマエの事だからきっと相談したかっただろうに、その大事な時も僕はオマエの側に居られなかったんだ。
ねえ、ハルカ…僕の事、許せないでしょ?僕だってハルカの立場だったら怒ってただろうし、簡単には許せない。それでも、本気でごめんって反省してるから……」
『………』
座敷だから靴を履かないといけない。抑えきれる自信がなくて口元を押さえたまま席を離れようとする。
携帯に"はく"とだけ書いた文字を悟側に置き、急いで靴を履こうと片足を突っ込んだ時だった。
「はく、て。大丈夫なの、オマエ?顔色真っ青じゃん」
『…っ!……~~っ!』
ぷる、と首を振れば苦笑いの悟。「もしかして、ギリギリ?」にゆっくりと頷いたら、横抱きに私を抱え、駆け込んでいくのは店内の個室、トイレ。
客席でぶちまける事はなく、結局はセーフで間に合った。さよなら、コーヒーとコメチキ。
胃を空にした私とお腹が空いているであろう悟。頼んだ定食は持ち帰れる物は容器に入れてもらい、私は悟と共に京都校の寮へ戻ることとなった。