第31章 灰色の日々
残念だなー…、とカキフライ定食の文字をガン見しているとパン!という乾いた音で顔を思わず上げた。両手を合わせた悟がちょっとだけ頭を下げていて。
「メンゴ!……今のわざとじゃないからね?お魚系以外で選ぼうか!」
全ての魚介類じゃないんだけれど、どれが大丈夫かは運次第。エンカウントは目の前に表れてからの問題ってワケよ。だから、『じゃあ…、』とコロッケ定食を選んで。
注文の際にグラスに水の注がれたものが席に置かれていき、店員が背を向けた時から私は悟の様子を観察していた。
『……で?』
ご飯よりもなによりも、この三週間近くの空白の理由が知りたい。気になりすぎてご飯どころじゃない。ふざける暇を与えるか、とまっすぐにサングラスをした目元を見る。どんな理由なのか、私は早く聞きたい……!
「……」
『……』
「………ッカー、そこまで熱ーい視線を送られたらどうしようもなくね?目で訴えてくる子猫ちゃんみたい!」
『そういうの、今いいから』
この流れで茶化して、ごまかして、なあなあで済まされたらこの話はこれで終わり!って切り捨てられる。話すべき時に話して貰わなきゃ。
『どうして私をほったらかしにして今、戻って来たわけ?』
そう迫れば覚悟を決めたのか、肩と視線を落とす悟。
「うん……、まあ気になるだろうしさっさと言うか~…怒ってるハルカも可愛いけれどさ?このまま怒らせっぱなしじゃ定期検診に一緒に行かせてくれなさそうだし…」
『来週、検診に行くのを見越して今更になって帰ってきたんではなくて?』
首を傾げつつ、にっこりと悟に笑いかけた。
……みえみえなんだよ。不安にさせて、私ひとり寂しい思いで待って……自分は報連相をせず、誰にも言わず動き、待ち望んだ子供の成長を見られる機会に合わせて帰ってくる、だなんて。
せめて、秘密の行動だとしても「数週間、出張に行く」とか、それくらいは言える時間はあったんじゃないの…?
私の返しに硬直した後に彼はへら、と笑った。
「いや、それもちょっとあるけど。任務が終わった期間はたまたまなの」
『なんの期間?私に、いや誰かに一言も言えないほど急ぎの用事ってそんなにタイムリミットがあったわけなの?』