第31章 灰色の日々
「とりあえずあのお店行こうか。さっきの感じからしてただ休憩だったんだろ?ご飯食べながらこうなった経緯を説明するから……」
悟を信じたいけど、夕飯一緒に作るから待ってて、といって三週間近く放置プレイした人だし信用度のポイントが減ってるんですよねえ…?
自分でも分かる、眉間に皺を寄せながらにジトー…とした不満の表情と疑いの視線で彼を見上げた。への字口を一文字に結ぶ彼の唇。
『……ちゃんとした理由じゃなかったら京都内の美しい庭園の氷張る池に悟のスケキヨを添えるかんな?覚悟しとけよ~?』
黒いズボンと靴が伝統的な庭園の池に突き刺さる姿を想像してみ?
いや、彼のことだから例え上手くスケキヨれても「シンクロナイズドスイミング~!」とかいって楽しんでそうだけどさ。
大して怯える事もなく、にこにこと笑う悟はするりと私の手を握った。久しぶりの大きな手、手のひらはごつごつとして、少しカサついていて私よりも暖かい手が久しぶり過ぎてなんだか泣きそうになる。いや、これくらいで泣いてたまるかって泣かないけどっ!
優しい微笑みで私を向き、わざと驚く表情。それを全て口元で現す悟。
「こっわ!……大丈夫だって!ちゃんとした理由ありだからっ!ねっ?まずは腹拵えだよー?久しぶりに一緒にご飯食べよ?……ね?」
『……。
ふー……、ふふっ!…ったく。分かった、分かった。とりあえずご飯食べます』
許したわけじゃない。でも、この体温は私の負の感情をゆっくりと溶かしていく。だから少しだけ悟の話を聞こうって気になるの。
暖かい手の主を見上げたら、悟はにこりと笑った。
「よーっし!しかしまあ、オマエの手は冷たいねー、僕が居ないとすーぐこんなに冷やしちゃうんだからさあ…」
『だったら、二度と居なくならなきゃ良いでしょうに』
少し懐かしいようなやりとりに笑顔も戻る。ぎゅっとしっかりと握られた手、「うん、離さない!」と笑う悟の言葉は嘘じゃないんだって信じてる。いえ、信じたい。
懐かしい熱に引かれた私は、ここよりも少しだけ離れた彼の指定したお店へと、短いデートをしながらに足を進めていった。