第31章 灰色の日々
『……来週の検診、悟は留守番かな。私の付き添いは硝子さんか傑さんに来てもらお』
「やー!」
後ろからザリ、と立ち上がる足音。こちらへと迫る声を聴き、そう簡単に掴まるかと早足で店の前から去るように進む。買い物に来たのに高専方面へとお帰りモードだ、このまま買い物なんて行ける?もう、コンビニとかついで寄りしてけば良い、悟を撒きながらさ。
もう、帰りたいんだよ。買い物って気分も無くなった。せっかく再会したというのにフリーダムな彼に力も抜けるわ……。歩くスピードを速める中で私の隣に立ち、早足に着いてくる悟。元々彼の脚は長いからこれくらいを本人は速いなんて思わないだろうけれど……(なんでそんなに脚長いのさ、ムカつくなっ)
「ごめん、キミには本当に悪かったって思ってる」
トン、と隣の肩に載せられる手。
乗せられた大きな手をチラ、と見て、乗せられた手を払う事無く私は速度を落とさずツカツカと進む。東京ほどじゃなくても夕方の時間は人が多くて、向かい側からやってくる人たちは私達を避けながら進んでいく。
「ねえ、ハルカ。どうしたら僕のことを許してくれる?」
『……それ、私の三週間分をどう補える?って聞いてるの?』
「わー…キレてるキレてる……呪力ちょい漏れしてるー……」
そりゃあキレもしますわ!漏れてたのは…うん、気を付けますけど。
横を向き、困った顔を口元で表してる彼を見てチッ、と舌打ちをし、それから私の肺いっぱい分の大きなため息が出た。この人は……まったく。空気が読めないそういう所だかんね?
許したというよりも呆れてしまった私は悟を見上げる。
『で?なんで帰ってくるって言いながら何も言わずに急に居なくなったの?すっごく心配したし腹立たしかったし、あんたが居ないことでまた上層部から無茶振りがこないかも含めて不安だったんだけど?』
「……まあ、そりゃあそうも思うよね~…」
ははは…と空笑いした悟は「そうだ、」と言いながら定食屋を指差す。
見た感じボロい外装でありながら人が入ってる……そのひと目見ただけの情報だけでも長年愛されてきたからこそ続けられているお店だと察する事が出来る。
お店から悟へと視線を移すと彼はその方向を顎でしゃくり笑っていた。その優しい笑顔に久しぶりにどきどきした、彼が帰ってきて安心して、としてね?