第31章 灰色の日々
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店舗を出て一度止めた足。
蜃気楼のように、砂漠の逃げるオアシスが如く悟がどこかにまた消えていないかという不安の中、さっきまで居た店内から見てガラス一枚の向こう側に私もやってきた。
彼が立っていた方向へと顔を向ければ、約三週間音信不通、行き先不明で離ればなれだった事がまるで何も無かったみたいにいつものように笑って片手を挙げた悟。そう、夢でも幻でもなく彼が居る。
悟が振ってた手を止めていて、私が凝視してるのを確認出来たのか激しめにぶんぶんと元気に振ってる。
「ハルカ~、久しぶりっ!ごめんごめーん、ちょっと伝えられなかったヤボ用でさあ~」
……ああ、うん。久しぶりに会ってひとつ思った事は"相変わらず"という事。彼は長い間離れていても久しぶりに会ったこの瞬間も変わらずに軽薄でへらへらとしていた。そういう所、案件だよ…もう。
ある意味での変わらぬ安心と、込み上げてくる怒り。
──人がさあ~…、はぁ…。どれだけ心配して、不安になって、寂しくって恋しくって。会いたかったと思ってんの……!
止めた足をズンズンと彼側へと進めながら小走り、いや全力で駆けて行く。手を広げて私を受け止めようとしてたらしい悟は胸を少し反らせて今の私を受け入れようとしてた。アイマスク下の口元は大きく弧を描いてるしご機嫌なのは分かる、けどさあ…。
今まで連絡もなく急に蒸発して急にリスポーンした人の胸に私が素直に飛び込むと思ってるの?ああ、思ってるんだろうなあ、悪びれた顔してないもん。なんて素敵なお花畑が頭に展開されている事でしょうねえ…?
『……フッ、』
地面を蹴り、すれ違いざまを狙うように悟の首に狙いを定め、腕で絡ませるように。ぐん、と力を込めザリッ、と踏みしめる靴底の細かな砂利。
……変わらず、無限を解いてくれてるんだ。久しぶりに触れた体温を一瞬だけ感じる中で、見事にスリングブレイドが決まった。尻からぽーん、と数歩後ろの歩道に飛んでいく彼。
歩道のど真ん中で座り直し、痛かったのか片手で腰を擦る悟。
「アウチッ!……もー、なんなのかなあ、うちの嫁さんはっ!嬉しいのに技を掛けてくるとか!ツンデレじゃなく喧嘩ップル目指してんの?キミは呪術師じゃなくて女子レスリングに転身した方がいいんじゃね?」
『あ゙あん?黙れ、なにも言わずに蒸発した人に喋る権利なんてないから』