第31章 灰色の日々
上層部に直接聞けるなら良いけれど、そこで悟の行方不明って事実が彼らに発覚してしまう。夜蛾学長や傑には今は自然と悟が帰ってくる事を待つように、と念を押されてるし、私はただ日常を送りながら彼を待つ、大人しく待つ事しか選択肢が無くて……。
……このままずっと帰って来なくて、お腹がどんどん膨らんでいって。
出産もひとり、名付けも私だけが考えて成長を共に見守ることなくそれでも悟を待つような事態にはなって欲しくないな……。
早く帰ってきて。
何度も何度も願い続けるその言葉をまた祈りながら、揺れるカーテンから視線を歌姫に移した。
眠そうではあるけれど彼女は酷くこちらを心配してくれていた。
「……ハルカ…あんた、本当に大丈夫なの?」
『大丈夫、です!』
大丈夫じゃないよ。本当は。空元気なのをきっと歌姫も分かってる。彼女は何かまだ言いたそうだけれど、開いた唇は閉じて、「そう……」とそこで会話を切って。
微笑む彼女は私の頭に手を乗せた。ぽんぽん、と。
「……仕方ないから、今日くらい一緒に寝てあげても良いわよ?」
『えっ、恥ずかしいっすよ……なにかヘンな事されません?』
そっ…、とふざけて自身の身体を抱き、歌姫から引けば歌姫は鼻で笑った。
「ヘンな事するわけないでしょ!もー…別に女ふたりなんだし変な趣味だって持ってないし!
って事でね、夜、あんたんとこ行くから。私が来たら鍵開けなさいね?」
両手の人差し指でこちらを指す歌姫、私はまるで京都への修学旅行を思い出しちゃって。
団体部屋で枕投げ、大盛り上がりしたんだよな~!流石に大人になってはしないけれどさ?
『……部屋に来ても良いですけど…枕投げはしませんよー?』
「……修学旅行じゃないわよっ!夜ふかしもしないからね?夜ふかししそうなら、私が寝かしつけるから覚悟しときなさい」
『わー歌姫さんの子守唄ッスか?よっし、子守唄聞くため夜ふかししたろっ!リクエストイケます??』
「こら、変な覚悟すんな?」
……そう、笑って気を遣ってくれた彼女。私はこの日で初めて、悟が居なくなってからの人のぬくもりに包まれながらぐっすりと寝付く事が出来た。