第31章 灰色の日々
298.
──焼き鳥、行きません?
歌姫と京都校の寮の談話室でだらだらと会話中。真顔で私は彼女に耳打ちをした。
無言で訝しむ彼女。そりゃあそうだ、現在の私は妊婦。アルコールは控えろって立場。でもさ、インアルはNGでもノンアルはイケちゃいますって!ちゅーことで私はそっちを飲むよ、つまみを食べながら!今回の私は酒を楽しむよりも料理を楽しむってワケさ!
「行っても良いけどさあ……貴女、つわり大丈夫なの?」
『……ワタシ、リバース、ギャマンスル!ガンバルネ!』
ばちん、と歌姫にウインクをして少し自信が無いので小さくサムズアップすれば呆れた顔をされてしまった。
「……全然頑張れなさそうじゃない、あんまり無理しないほうが良いでしょ…?」
うん…、歌姫の言う通り確かにそうなんだけれどさ。
今がつわりのピークと言われる時期…とはいえ割と耐えられるのが多く、魚介類の生臭さじゃなければ普通の料理の香りには強烈な吐き気は催さない。焼き鳥のあの香りなら(多分!)大丈夫なハズだし、前回を思えば魚介類、ダイスキ!ってワケじゃない歌姫の頼み方をみれば、ここしかねえ!……とね?
せっかくの京都、私も寮での料理よりもそうやって外食を楽しみたいってわけでして。調理がめんどくさいから、もちょっとありますが…!
居酒屋っていったら魚介類が多い。焼肉屋でもイカ焼くやつ居るし、粉ものは論外、タコもイカも海老も、通常ならうまそーってなる香りが今の私には胃というか嗅覚といいますか、鳩尾パンチものですよ。主に胃酸が消化物と共に逆流する反抗心。
なら、魚介料理があまりなくほとんどの人間が鶏を選ぶ焼き鳥をチョイスして歌姫に耳打ちしたってわけ。
じっと見て両手を合わせ、ペコ、とお辞儀してお願いすれば歌姫は「仕方ないわね…」と折れてくれる。ふふん、やったぜ。そう心の中でガッツポーズをする中、彼女はにこにこと機嫌よく笑って頬杖をしていた。
「じゃ、明日の放課後行くわよ!ハルカがこっちに居るのもあと数日なんだし丁度良いでしょ。
それと言っとくけど、私の目が黒いうちはハルカにアルコールはひとくちたりとも飲ませないからね?」
『御意!ノンアルビールが確かあったんでノンアル飲みます!気分だけアル中させて頂きます!』
「なら良し!ハルカ、明日あの店行くわよ!」
『やったあ!』