第31章 灰色の日々
お土産の袋を私は持ち、デスクの端に寄せて、にっこりとスマイル0円を向け楽巌寺学長の背を送り届けた。その学長の姿を東堂は視線を追い、ドアが最後まで閉まる所まで見送っている。
……で、これなんだろ?と袋を覗く。ガサ、と中を見下ろせばすぐに漬物の匂いとは違うなんとも良い爽やかな香り。直ぐ側には東堂の顔があり、同じく袋の中身を覗いてる彼。真下からは漬物臭、隣からは清潔感のあるイイ男の香り。
『……』
そういえば拉致られ掛けた時も良い匂いしてたなー…、とちっとも汗や男臭くない東堂の袋を覗いてる横顔を見る。
「すぐきか。冬っつったらこれだな」
『ほーん…すぐき……?初めて聞きましたわ』
中を見ている顔が上がる。にっ!と東堂が笑ってウインクをした。
「味は酸っぱめな漬物だな。切ってそのまま食べても良いが、醤油と七味を掛けると美味いぞ。チャーハンやパスタに入れて調理して食ってもいい」
『ほう…!それはいい事聞いた!』
今日、早速帰って味見しよ。んで夜、食べられたら食べてみようっと!
現在進行系で気持ち悪く、学長と会話中にも『すいません……チャージさせて下さい…』とレモンキャンディを口に入れてた。ちなみに最終段階になるとシゲキックスだ。そこまで来たらもう吐くしか無い、とトイレに駆け込んでリバースする。
先週、先々週よりも酷くなってきたから、ガサガサ音とか授業中に流石に口に入れられないので、医務室に居る時は割と気が楽。東堂が来てくれたのは延長線だ、ありがてえ…!
……と、明らかに負傷箇所が丸わかりな、制服の前を開け素肌を晒す東堂を『治療でしたね』と、学長がさっきまで座ってた椅子へと案内する。いけない、本業を忘れる所だったわ。
「すまんな、ハルカ」
腰掛けると東堂の体格の良さもあり、学長の時よりもギシッ、と大きな音を立てた椅子。
お土産の疑問は晴れまして。私も椅子に座って東堂側に少し寄る。
『いえ。むしろ安心しました、東堂さんも怪我するモンなんですね~』
悟の無下限ならぬ物理……筋肉で弾いてそうなイメージがあった。超合金クロビカリの如く、鋼の肉体的な。
私の言葉に肩を揺らし短く笑う東堂。