第31章 灰色の日々
その質問が京都では悟が行方不明である、とかそのように悟を敵視する人物に有利になるように広まっていないか、という私からの確認だと分かったらしい。歌姫は周囲を目配せして指先でこいこい、と私を寄せる。私が彼女側に体を寄せれば手を当てる程じゃないけれど耳元でボソリ、と口を開いた。
「……今ん所、好きに動いて"必ず"夜には帰ってるって話だけよ。自由に動きたいから連絡を切って、夜蛾学長達から接触されそうになったら逃げてる……そういう話を回してるわ」
『……ありがとうございます』
「いいえ、逆に私にはこのくらいしかこっちでは協力出来なくて……ごめんなさいね…?」
ふっ、と笑って寄せてたこちらに少し寄せてた体を戻す歌姫。私も自分の背もたれに背を着けて。
歌姫については京都での信用出来る人物なんだろう、と確信した瞬間だった。
いや、疑ってるわけじゃないけれど怪しまれないようにしてくれている。根回ししてるという事は悟が居ないとバレたら私がどうなるかを理解してるって事だから。
呪術の聖地たる京都、呪術師も多い。その地で信用出来る人が居るってのはかなり過ごしやすくはなる。
目の前の座席、誰かの髪を見上げながら私は声を小さくして歌姫に『十分にありがたいです』と感謝を伝えた。
『……じゃあ、悟の行方については私もあっちでは漏らしません。下手げに聞き回るのは危険ですしね』
「うん、それがベストね。東京よりもあっちでは特に気を付けなさい」
その警告に深く頷き、私は京都校では歌姫以外には真相を話さないと決めた。
言葉少なくなれば、考えてしまうのは彼の事ばかり。あの日、打ち明けたから今こんな事になってる。あの話は隠して、悟に言わない方が良かった?でも、言わないのは夫婦として、生徒と教師として良くない事。判断は間違ってなかったと思うのに。
……何事もなくすぐに帰って来てくれたならあの後、部屋できっと一緒にご飯を作って、片付けを終えて。未だどっちなのか不明な性別、名前をどうするかとか話し合って。お風呂に入って、抱きしめられながら一緒に眠ってただろうに。
ここのところ、ずっと彼を模した小さな呪骸を抱きしめて寝てる。
気を遣ってか、元気にしようとしてくれる歌姫に感謝をしながらも、心は東京に置き去りのまま。
私は悟に直接言える事なく置き手紙をして京都に出張に出掛けてしまった。