第31章 灰色の日々
『あー……私としてはそれくらいは良いとは思うんですけど。担任に一応行っていいかの相談したいのに出来ないんですよねえ……』
「そっスねー……まあ、ギリギリまで保留って補助監督生内で伝えときますけど。今週末、金曜までには答え出して下さいね!」
『了解ッス』
判断をギリギリまでのばしてくれた。それはありがたいけど最後は私の意志で向こうに行く形になるのか。そこは強制ではないのが嬉しいけれどさ?
野薔薇の「新田ちゃん、前、前」と指差されて前方を向いた新田が車を発進させる。急なアクセル、首痛って!……もう。
視線は車の外、流れていく車窓の景色。
悟に伝えられないから、そのもしもが来たら悟の携帯に連絡を残しておくか、書き置きをしておくかになる……それまでに無事で帰ってきて欲しいんだけど。
ぐるぐると頭の中で考え事をしていけば揺れる車内と暖房で常夏と化した密室。せっかくの考え事をする脳みそがシャフルされそうな気がする……。こう、ハンバーグのさ、空気抜き、みたいなシャッフルがさあ……。
『う、ちょっと飴とか舐めて良いです……?』
「そこんところ私、厳しくないんでいいッスよ?」
新田の返事を待たずに、ごそごそとポケットに詰め込んでた飴をひとつ取り出して口に突っ込む。やべーやべー…寸前!喉下くらいまで込み上げる感覚。
無言で野薔薇を見ると、車内に誰か置いていったであろう、ビニール袋を畳んだものをこっちに向けてる。
「あんた大丈夫?」
『ちょっと回復してきた、最悪呪いにリバースしてやるわ……』
「……そりゃあ呪いも祓われそうだな、ショックで」
哀れみの視線を向けながらにすっと私の背へと伸ばされる手。背中を擦ってくれている。
……片手のビニール袋を握りしめたままに。
「マジで吐きそうになるのねー、ぱっと見妊娠してるように見えないのに…」
『マジつらたん、悟がお寿司行こう!って誘う度に殺意を込めた波動出してる…』
その冗談さえも今じゃ懐かしく感じるわ…。わざと言ってるその誘いがもう三日は聞いていないんですけどね。
私の言葉に食いついた野薔薇。擦る手が触れたままで止まった。
「……ハンター?それともファイターなの、ハルカって…」
「ヌー」
「……それどっちよ、狗巻先輩より分かりにくいわ、サトールの言葉…」
『この子の言葉に意味は無いと思った方が良いよ……』