第31章 灰色の日々
私は酒で酔っても車では酔わず、な方だけれどさ。女三人冷えるから暖房つけようぜ!と温めた車内。ぽかぽかを通り越して私には常夏を感じさせる車内と荒い運転、それからつわりもあってかなり気持ち悪くなってる。
……ので、私側だけ窓を少し開けて時々外の冷たい空気を吸ってリセットしていた。我慢出来るならとことん我慢しよう、ここまで来たら吐いたら負けだ、吐くな吐くな吐くな…。
「ねえ、ハルカ。あんたの携帯に先生からの連絡は未だなしなの?」
『……、』
任務前の私自身との戦いの途中に現実に引き戻された言葉。隣の席で窓のふちに肘を当てて頬杖をついてる野薔薇が、こちらを見て質問してた。その彼女の言葉に一度こくん、と頷いて。
『未だナシです』
「……本当にどこに行くとかも言ってないのよね?」
『ん、上層部に物言いを言いに行く、それがすぐに終わるって言うことくらい……終わるどころかまず帰って来なかったけど』
……確か、上層部に繋がる連絡手段として、高専内なら上層部の指示を乞う、総監部がある。だからその文句は高専内で終わるもので言い合いが長引かない限りは彼が言った通りすぐに済む用事だった、はず……。
悟と一緒の時間を楽しみにしてた。一緒にご飯作るって言ってたから、彼が帰るのを待ってた。連絡もないし、と電話を掛ければ携帯は部屋に置きっぱなしだったし。
だから結局、夜の九時頃にひとり作って食べて、悟の分を残して……翌日にそれを私が食べて。結局、彼の口に入る事はなかったんだけど。
例え直訴が長引いて翌日の休日に帰ってくる、だったら私は馬鹿たれ!と正拳突き程度で許したかもしれないけれど、消息不明の状態で三日も連絡がつかないとなると異常だ。怒りよりも心配。
野薔薇に相談をしてみると真剣に聞いてくれたけど…。
「どっかで刺されて死んでんじゃね?」
『辛辣ぅ~…でも否定が出来ない…殺されそうな性格だしねえ~……うん、犯人候補多すぎるでしょ、ハハハ…』
野薔薇の冗談(…多分)に相槌しながら、膝の上の拳に力を入れる。
……本当に悟、どこに行ったわけ?
上層部に文句を言った後にどこかに向かうなら、せめて行き先くらい教えに部屋に戻ってきても良いじゃん。海外にまた出張だとか、何県に任務が入った、とかさ。それともありえないと思うけれど、どこかでピンチになってるか……最悪、重傷や死んでる、とか。