第30章 彼と共に彼を待つ
「うん。ありがと!僕にとってハルカもお腹の子も無事に元気で居れば幸せだからね。だからいつも無茶するハルカにこれ以上無理をさせないように僕は今まで以上に頑張るから。安心して?」
少しだけ冷めたお茶を飲んでいると、前方から手が伸びて頭をくしゃくしゃに撫でていく彼。髪の毛鳥の巣にされるのは困るんだけど?
けど彼に撫でられるのは好きだから少しだけ座りながら前傾姿勢になる。
『……もっと撫でたまえ。シルブプレ、だよ悟』
「言われなくても撫でまくっちゃう。お触りし放題!」
『……言い方がなんかやだなあ、それ』
乱暴にぐしゃぐしゃに撫でた手はやがて梳くように撫でていき、ある程度は整える手付きになり、ゆっくりとしたペースで髪の流れに沿って撫でつけてる大きな手。気持ち良くて目を閉じれば「かわいい…」って呟き小さく笑う声。久しぶりに帰ってきてくれたこの寂しい部屋で甘く満たされるふたりきりの時間を迎えられるんだって気が付けば更に嬉しいもんで。
「……でもさ。僕、上の連中には今すぐ文句言いたいな~。ハルカと一緒にご飯作りたいから、僕が帰るまではゆっくりして待っててよ?」
ギッ、と椅子を鳴らして立ち上がる悟は撫でる手ごと食卓から早足で離れていく。こういう事には早いよね、とその背中を見て私も直ぐに椅子から立ち上がった。
『悟、』
「ん、なぁに?」
振り返った悟は片手にサングラスを持ってる。今から上層部の人らに文句を言いに行くのは分かるけれど、部屋に帰ってきて過ごせる程度の外には向かない服装。
いくらすぐに帰ってくるつもりでも外に行くなら寒そうだしコートとマフラーくらいは装備してった方が良いし……。
掛けてあるコートとマフラーの元に私も早足で駆けつけ、それを持って悟の前に立った。
『んっ』
「おや、カンタかな?」
『誰がボロ傘押し付けるカンタやねん。いくらすぐ戻るっても寒いしあったかい格好で外出なよ……風邪引いたら嫌でしょ?』