第30章 彼と共に彼を待つ
寝る前に話していたらきっと眠れないだろうし、言うなら今かなって話した、彼が居なかった二週間の出来事。
いつもと違う任務についてや、尋問を半ば強制的にさせられた事。しかも知らなかったならたまたまだけど…いやあえてわざとってパターンもあるけれど。コトリバコを作る呪詛師を相手にした尋問という事。ヤタベが素直に吐かないから尋問は拷問へと変わっていった。
乙骨がたまたま来なかったら私と付き添いの伊地知程度で、暴れられたり最悪の事態が避けられない状況あったかもって事。
悟が椅子に座った時に「何か僕に言いたいことあるんでしょ?」と声をかけたから、空気を読まない事が多々あるのにこういうのには敏感なんだな、とお茶用に沸かしていたお湯が沸く前に全てを話し終えてしまって、話し終えた今になってお湯が沸いてしまった。
あれほどに浮かれていた悟が黙って、いつになく真剣な表情で片手に掴んだ呪骸をサングラスの上からじっと見てる。自身をイメージした呪骸を見つめる両目の青は真っ直ぐにサトールを見てるというよりも、ただ考え事をしてるんだと思うけれど……。私には彼のその表情が苛立ってる様にも見えた。
とす…、とサトールをコチラに置き、開放されたサトールがカサカサと私の方に駆けつけてくる。悟は片手でガシガシと髪を掻き、大きなため息を吐いた後に額を抑える悟。
「……ふ、ざけんなよ…っ」
彼の声は絞るような声で、その声が怒りや悲しみで震えてた。
「僕が、ハルカの側を離れた隙に上層部は、オマエの事好き勝手消耗しようとしてんだ……。妊娠を知らなくたって、例え知ってても尋問を強制的にさせてた。僕への嫌がらせ以前にオマエの命なんて考えないで道具としてしか見ていねえ……、」
何度か思いついたように口を開いてはそれを吐き出すまいと一文字に閉じるを繰り返し、舌打ちをし、はあー…、と大きなため息をついて乱暴に机に立てた肘。サングラスを雑に外してカン、と机に置くと掌で額を抑えてまたため息を吐いて。
今の彼の表情は前髪で隠れて見えない。私からはつむじが見えるだけ。
「──やっぱ、上のヤツら…全員殺した方がいいだろ。放置してたら僕の嫁や子供の命はアイツらの手の上だし。年寄りだ、老い先短い命を短縮してやるくらい、別にいいだろ…」