第30章 彼と共に彼を待つ
そう言って私は片手にふたつぶら下がる買い物袋へと手をのばした。買い物は今彼が全部持ってるし、ふたつもあるならお互いに分けて持った方が良いしって思ったから。別に買ったものは重いものじゃないしね。
けれども私が伸ばした手を見た悟はにっこりと笑って、ガサ、と揺らしながら私の手の届かないように引っ込ませる。代わりにキーをしまって空いた手を私の手に重ねてぎゅっと握った。
「これが欲しいのかな?」
『いやいや、そうじゃなくってさ?』
「えーそうじゃないの……?」
ちょっと悲しげな表情を作ってる悟。ワンコっぽく見えて今にも悲しそうな声でクゥーン…とか鳴きそうな。
「僕とおてて、繋ぎたくないんだ?いと、かなしけり…」
『いや、悟と手を繋ぐのはいいの。嬉しいよ?けど荷物を半分持とうかなって思ってさー…』
ふーん、と返事をしながらに車庫からゆっくりとした足取りでの帰り道。行きは早退の為に明るかった道も薄暗くなり始めてる。
お互いが繋がる手、きゅっと絡む指に悟から力が入れられた。
「悟くんのお手々を握って部屋まで帰るって重大な任務だろ?これは誰にでも出来るものじゃない。僕の奥さんだけの特権です!」
『しかしねえ、』
私、ほぼ手ぶらだよ?自身の荷物は軽いバッグ。肩に掛けて両手は手ぶら。今は悟と手を繋いでるけれど。
幾つかお店をハシゴした買い物袋。大きな袋をふたつとも片手に下げてる悟にちょっとだけ申し訳ないって思って。
じっと私を微笑みながら覗き込む悟を見上げながら、地面を歩けば踏みしめた土が凍ってた。滑らないし、車庫内の床となんら変わりがない。足元はすっごく冷えてるな……。
『……うん、分かった。ありがとう。この任務受ける』
「ふふ…、うん、いいねえ!極秘任務だ、頑張れ」
私が手を繋ぐことを受け入れて笑えば温かい手の彼の悟も笑ってくれて嬉しそうで見てる私も嬉しい。
……ただ、この笑顔を、幸せな雰囲気を壊すような事を部屋に戻ったら私は話すつもりでいる。ずるずると引きずって話さないままは良くないよね。それは頭で分かってる。
そして、私がこの話そうにその話題に出さないもどかしさは、もしかしたら悟には何となく察してるのかもしれないけれど。彼なりに今は嬉しい事でいっぱいで、そんな中でも待っていてくれてるんだ……。