第30章 彼と共に彼を待つ
「ヌゥ…」と小さな声を出すサトール。その彼の背が当たる自身の腹部にそっと触れて。
きちんと安定して育っていって欲しいなあ……大きくなって、この子を迎えてあげたい。
写真を持ったまま、その当時四週間と少しの命の姿から悟の横顔を見た。
『……ねえ、悟。名前、男の子だったらマジで勝なの?』
そしたら将来、眼鏡掛けそうだなあ。しきりに五条勝だとかサトシにするだとか言ってたし本気なんでしょ?と隣を見れば下唇を突き出しながら表情を歪めてこっちを見る。
だから前、前!と指差して運転に集中させて。危ない天丼は止めなさい。
「えっ?流石に簡易的すぎるっしょ。なに、キミってば男の子が生まれたらサッカー選手にしたいワケ~?僕は流石に子供の事を考えて良く悩んでから名前付けるけど?」
『……うっわ、マトモな思考だった、悟も真面目になるんだなあー』
「オマエ、さては僕がマトモじゃないって思ってんの?」
……とりあえずは黙っとこ!とキュッと口を結んで悟から顔を反らしとく。
今日分かるのか、この次に分かるのか。その次に分かるのか。いつ判明するのか分からない性別。
受け継がれる術式はどっちの家の系統かも気になるけれど、性別が判明したら名前をどうするかって話。この子の一生に付きまとう大事な名前なのだから私もたくさん悩んで名前を考えたい。女の子だったら名前、どうしようかなあ……。
窓の外を見れば、あの勘違いしたり嬉しい出来事が判明したあの通りへの標識が見える。そろそろ目的地が近いんだ、と窓の外の景色から運転中の悟を見て。
『もうすぐ産婦人科だね』
あと十分かそこらで到着すると思うけど。
あの時は初めてで、ひとりでふらふらと出歩いた街並みを眺めながらも私は言葉を零す。
静かな声色で隣からの当時を懐かしむ声色を帯びたレスポンス。
「二週間ぶりの街並みだねえ~……ハルカが僕が浮気した!って勘違いした時のっ!」
『ごめんて』
あれはそう思わざる負えない状況だったから余計に、他の女とホテルで致してたんだ!って思ってしまったわけで。