第30章 彼と共に彼を待つ
『うーん……、ちょっと吐き気とか出てきたかなあ……なんとか我慢出来るけど、嫌な匂いとのダブルパンチの時はヤバイ。胃がムカムカするっていうか、自分で治療しようにも治療が効かないから体の自然な変化なんだろうって思うんだけど……』
傑も結構心配してきたなー…と、もんじゃ焼きの店舗の事を昨日の事のように思い出す。この二週間がまだかなー?って終わりを長く感じたのに、いざ彼に会ってしまえば短くも感じた。
口を大きく開け驚いた表情の悟がこっちをガン見してる。前、前と指で前方を指せば慌てて前を見る悟。
「わー…それ、大丈夫なわけぇ?それでご飯食べられんの?栄養摂れてる?赤ちゃんに影響ない?平気?ハルカが痩せっちゃわない?霞食ってんの?てかそんな状態でうんこ出んの?」
『すっげえ畳み掛けてくんねえ……』
……小学生の大好きなうんことかいう下品なネタには触れないでおき。
今頃に出る症状が酷いのか軽いのかは分からない。人それぞれというし、私の知ってる妊婦だと兄の嫁が居るけれど、その姉さんも実際妊娠期間に会っていたわけじゃないから詳しい話を知らない。詳しくは携帯越しのメッセージってワケ。
彼の質問に私は首を横に振った。
『吐く時はたまーにね。食事は食べられる時に食べてるから平気。ただやっぱり匂いの強い……特に海鮮系はちょっと遠慮したいかな~…
噂は本当じゃった。今はシースーはご遠慮かなあ……』
「へー、実感してるね~!ところで夕飯どうする?銀座の寿司?」
『悟、今の話聞いてた?』
緩いカーブを曲がり、平坦で真っ直ぐな道を走行する車。
ふふふ、と声を漏らしハンドルを握りながら楽しそうに運転してる彼の笑顔を見ているとこっちも気が少しばかり楽になってくる。
「産婦人科、楽しみだね~!二週間前よりも元気に成長してると良いね、僕らのエケチャン!」
『その呼び方よお~……うん。元気に成長していれば良いなー…』
片手でハンドルを握ったままに悟はポケットからもぞもぞと探るように取り出す一枚の写真。
二週間前に私が持ってた、初めてみた自分のお腹に宿してるものの正体。奇跡的なその小さな丸い影を映した写真を悟から受け取って久しぶりにじっと眺める。
体に変化は出ているからきっと、この丸いものはちゃんとヒトとしての形に向かって育ってるはず…出来るだけ生活には気を付けていたけれど。