第30章 彼と共に彼を待つ
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部屋で制服から私服へと着替えて車の助手席のドアをパタン、と閉めた。膝に呪骸のサトールを乗せて、自身の保護と車内をうろちょろとしないように呪骸である小さな体ごとシートベルトで固定していれば、運転席でもシートベルトを丁度カチッ、と締め終わった悟。
隣の彼を見れば明らかにそわそわとしていて、またパーキングのままアクセルでも踏むんじゃねえの?と期待はしたけれど、普通に発進した。あれ、興奮状態ならまたやらかすかと思ったんだけど……。
『あれ、だるま屋ウィーリーしないの?』
「……ふふ、僕だってゴールド免許よ?いつまでも最強の男が家族を乗せた状態でウィーリーしたり壁を走ったりナルト走りは出来ないかな~?」
法定速度で車を走らせる悟。彼は横目でちら、とサングラスの内側よりこちらに瞳を向けてくれる。冗談は直接会うのが二週間ぶりでも相変わらずだけどさ?……その自信満々の口元の笑みを見てると、すぐ隣に悟が居るって確かに感じられてほっとするなあ…。
「……僕に会えて嬉しいんだろ?オマエ~」
『……ん、もちのろん。嬉しくないわけないでしょ』
そりゃあ嬉しいに決まってるよ、久々にやっと会えたんだから。でも嬉しいからって、みんなの前で彼のようにそう簡単には全ては曝け出せない。今、ふたりっきりだから、悟の前だけだから……。
ククッ、と笑った悟は前方を見たままに続ける。
「もう、つんつんギザギザなデレを出しちゃって!とんでもない猫ちゃんみたいね。
で、僕が居ない間、体調とか大丈夫だった?ほら、二週間も経過してるしさ~……」
携帯越しでしか情報を得られない今、こうして移動しながら実際に会えなかった分の話を聞こうとする悟。
尋問とか、悟が居ない間の不穏な任務については……今は置いておこうね。今は彼には運転に集中を、そして病院などに行くことが目的なんだし、それを優先にして、部屋に帰ったらゆっくりと話そう。
……明日は休みだし、マンションの方に行っても良いんだけれどさ。きっと悟の事だからと先を見越して、今週末は寮の部屋で過ごすと決めていた。すぐに部屋で悟を迎えられるかなって。
まさか一日早く帰ってくるとは思ってなかったけど。
サングラスを掛けてる彼の横顔は無邪気そうな笑みなのにとても頼れる顔付きをしてた。まっすぐと顔は正面を向いてるけれど時々青い瞳がこちらを向く。