第30章 彼と共に彼を待つ
「なんてもん買って来てんですか……」
「ん?ああ、ポプジーの事?それは傑にあげようかなーって。流石にお土産に二億個は無理だけど、ハハッ!」
『(精子、の形の入れ物にお酒入ってるやつじゃねえか……)』
呆れて肩を落とす私に、静まる教室内。
その沈黙を破ったのは硝子の一言。それは悟にではなく私に向けられたもの。
「……いい加減、夏油に刺されてもおかしくないな?そしたら私は治療しないからな」
『それで良いと思いますよ、身から出た錆ですもん』
そんな嫌がらせばっかしてると貴重な友人も無くすからな?ドイツ帰りの悟をしらー…と見てれば彼は私を指差しながら硝子にへらへらしていた。
「えー…そしたらハルカに治してもらゆっ!」
「……おーい、ハルカ。レッドカードだ、そこのおじゃま虫をつまみ出してくれ。この後の内容は三人か私に聞いてくれれば良いから」
真顔で指先でドアを指差す硝子にサムズアップして両頬に自身の人差し指をぷにっ、と突き立ててぶりっ子する悟の服を引っ張る。連れ出さないと授業がいつまでも再開しない。そういう無限回の邪魔を教室という領域で展開するな。
彼の服を伸ばしながら教室のドアへ。
『お先でーす』
「ん、お疲れー」
皆に片手を挙げて挨拶を済ませ、ドアを閉めて。
引っ張っていた悟が自分の足でちゃんと歩き始めるのを見て、やっと服を離して。あー…騒がしい帰国劇だった。
……傑なり伏黒にこういうちょっかい出しまくってさ?そのうち背後から刺されんぞ?と心配しつつも、この騒動で私のバッグからプリズン・ブレイクした瞬間のサトールを廊下で抱き抱え、そのまま私と悟はふたり並んで皆よりも早々と寮へ戻る事にした。