第30章 彼と共に彼を待つ
……キッモ!って言ったのは野薔薇。でも誰もチクらず、野薔薇は顔を反らしてる。一瞬プリッ、とキレ掛けた悟の口が一文字に結ばれると再び弧を描いた。
やや遅れて「キモクナーイ!」と頬を膨らませぶりっ子な表情を浮かべた彼は野薔薇に顔を向けて頭を振って。
両腕のお土産をガサガサ言わせながら、手をキョンシーのようにこちらに向け、わきわきと指を怪しく動かしてる悟。この状態の悟に捕まったら終わりじゃん。っべーよ、べー。
その熊と対峙した際のような、のそのそとしたお互いに動きを読み合うような状態から逃げ、静かに座っている伏黒の背後に回る。伏黒の机の前には悟が回り込んでる。
「……俺を巻き込まないでくれませんかね、先生。そもそも授業中です、五条先生の担当の授業でもないし、はっきり言って授業の邪魔なんスけど」
そうそう、授業中なんだよね。私もこの硝子の授業がためになるから真面目に聞いていたんだけど。授業は保健体育、でも内容的にはあまり真面目に聞けないような性についての内容ではなく理科に近いものなんだけど。
そこで悟は口を開け、「授業中!そっかぁ!」と言って振り返る。その視線の先には硝子。硝子は腕を組んで肩を竦めた。
「……そう、授業中だから五条、邪魔。退場してくれる?」
「あー!そっか、授業で硝子が居るって事は……保健体育かー!懐かしいなー!僕、天才だから保健体育も超得意だよっ!なんでも聞いて?」
ガサ、と伏黒の机に乗せたお土産たち。荷物置きにされた事、これには伏黒も眉間に皺を寄せずには居られない。
……おい、帰って早々に迷惑をかけんじゃない!
迷惑を振りまいた後は空いた手でさらさらの白髪をかき上げて無駄に振りまく色気。その瞬間、私の机の上に置きっぱなしのサトールが小さくだけど「チッ」って舌打ちみたいな鳴き声を上げてた……聞き間違いだと良いけどさ?
伏黒の背後に退避する私からは振り返る悟の後頭部が見えている状態。その彼が硝子に向かって人差し指を立てながら、得意げに話してる。