第30章 彼と共に彼を待つ
「……すみません、私には大変理解が出来ない領域のようだ…もはや新世界の趣味と言いますか。貴女、もしや悪趣味では?」
『ソンナー…えっ、でもよく見て下さいよ、七海さん!ほら、この表情に口元といい…ちょうどよいファンシー界の神比率の等身といい。可愛いじゃないですか?
見守ってくれるし、一緒に寝てくれるし……不審者に遭遇時は通報してくれるし!』
彼を煽てれば、褒められてる?と理解したらしいサトール。私から見えるのはもはやサトールの後頭部。はい、完全に七海にアピールタイム入りましたー!
よーし、その可愛さと万能さ、存分に評価して貰え~?とにこにこと抑えきれない笑みを漏らしながら、カサカサモードをせずに覚束ない足取りでモデルウォークのようによちよち歩く姿を見ていれば。七海はそんなプリチー呪骸から顔を上げて私を見る。
「不審者?ハルカさん、貴女、不審者に遭遇したんですか?」
少し食いつく口調に、あっ、と私は目の前の七海から視線を反らす。小さく、それこそこの静かな室内だからこそ聞こえるほどの声で『傑さんと居る時に……めっちゃ悟に通報されたみたいです…傑さんが不審者だって』と零すと、同じく七海から小さく「不審者……」と呟かれた。サトールの判断基準はどうなってるのやら……もしも七海を不審者と扱っていたら、すぐにでも悟から「オマエ今大丈夫なのっ!?」って連絡来るだろうし…。
「……呪骸は置いておき。しかし、自身の体を思うなら温かい格好もせずこのような部屋でひとり、居眠りは宜しくないと思いますよ?」
その口振りから察するに悟に七海にも色々伝えられてるんだろうと、やや呆れた表情にも見える七海をじっと見て。
『やっぱり七海さんにも言ってたんですか…。まだ安定してないから言うなら一部で良いのに、こうもあちこちに言いまわってるんだから……』
きっと、日本を出たどこかで今、盛大なくしゃみをしている悟を思い浮かべる。彼が居るのはあったかい所かな、寒い所かな。無理して二週間に任務を収めようとしないで、体に気を付けてして欲しいものだけど。
アピールも虚しく注目されてないし、話題が自身の元の悟だからか不貞腐れたらしいサトール。机の上でヤケになってよつん這いでカサカサと高速での運動をし始めると七海が小さく「うわ」と引いてた。せっかく可愛さと有能さを伝えたのに嫌悪感でパァ、じゃねえか。