第30章 彼と共に彼を待つ
「──だから、ハルカさんも焦らずにゆっくりで良いと思います。急に自分に出来る力以上に自分を追い詰めたら疲れますからね?」
『うーん……』
使わなきゃ強くなれないから呪術は使わないとだけど、今じゃ皆が気を使い始めてて使う機会が無いんだよなあ…。私が呪術を使う時は基本、吸い取って貯める方の呪術が主なんだよね。
確かに強くはなりたいけれど、サポート面でって感じだな……。
「ヌゥ…」と腕の中のサトールがひと鳴きした。なにさ、しょんぼりするなってか?心の友よ。
空いた手の人差し指を立てた乙骨はじっと私を見て。
「それに今は慣れない尋問に力を入れるよりも、身体を大事にしないと!ハルカさんと五条先生の赤ちゃんが居るんだから、任務よりも身体を大事にしないと、いくらハルカさんが大丈夫といってももうすぐ帰ってくるであろう先生に周りの皆が怒られるだろうし!」
『はぁい……』
私の返事の後に少しプリプリと乙骨は怒りながら「第一、"罰祟り"で血液を消失するなら赤ちゃんにも一大事なんですからねっ!?」と説教を食らう。さっきの拷問字のような本気さはなくとも威圧感があってちょっと私は彼から引きつつ。
…うん、確かにそうだ、詳細は分からないけれど大きな負傷を与える時はたくさんの血液が消えていった。爪とか指は失う血液は微々たるものでも長期戦だとどうなるか分からない。今回の尋問は私よりも乙骨の脅しが決定打になってた。
私自身は良いけれど、という問題じゃなくて今の私にとっての血液とは、授かった大事な命を支えるものでもあったんだ…。
『……今回はマジで伊地知さんも私も意思関係なく、上層部が押し付けたモンですけど。ぜーったいに悟に言いつけますわ!
危ないモンも作ってる人だって発覚したし……』
真剣な顔をした乙骨は私の言葉に頷き、一気に缶に残るドリンクを呷る。中身が空になったのか彼はすぐに近くのカン専用のゴミ箱に数歩近付き、中に空き缶を入れた。