第30章 彼と共に彼を待つ
私についてどこまで知ってんのかな、と乙骨の質問に思う。確か乙骨と傑は私が呪術高専に入って暫くは海外に居たのだし。人から聞いた程度だと思う。そして私も乙骨を良く知らない。
今はふたりきりだし直接彼に色々聞いてみよう。私の腕の中のサトールがもぞもぞと身を捩るように動いたので胸元を見れば小さな彼は見上げてた。片手で数度撫でてまた両手で温かいココアの詰まった缶を包むように添えて。
『……このままだと長生き出来ないって。呪力が溜まっていく中、安全な高専内で春日家について学んで、呪術が使えるようになったらそのままの流れで学生になって…。一度非術師の学校自体は卒業してるけど、呪術だとか実技なんて全く知らなかったんで…。帳を隔てた先のこの世界っていうか、自然と悪になる事を求められてるっていうか。
……乙骨先輩は?』
へら、と笑う乙骨は少し気恥ずかしそうな表情を見せた。さっきの尋問の時の冷たい視線の彼との大きなギャップにこっちが元々の乙骨であると思いたい…。
「……やっぱり、年上の人に敬語使われるのはなんかなあ~…」
『いや、学生だとそう思うかもですけど、卒業後働いたりすると年下が上司とか転職先で長く居たりすると先輩になったりするから私には違和感ないんスよ……。呪術師としても皆、私よりも先輩なのは違いないし…?』
「うーん…そうかなあ?」
ふふ、と笑った後に急に真面目な顔をした彼は自らのここに来るまでの経緯を話す。
彼は特級過呪怨霊となった里香の呪いを解く為に。そして今は自身を必要としてくれる人に、そして大切な人達の為に。初めこそ多くを悩んだこと、弱かった事。コントロールが難しかった事。一年ほど前の呪詛師が結成したクーデターをきっかけに自身の覚醒をしたこと。
以降、高専だけではなく、海外へと傑含む数人の呪術師と旅をする事が多かった、という事。今、帰国してる彼はクラスメイトと居られるこの日々が幸せなんだそうだ。
で、代わりに海外に行ってる呪術師が一時帰国してるその穴埋めに悟が二週間行っているという詳細も聞いた。きっと悟とすれ違いにその呪術師がまた海外に行くんでしょうね…。ほーんと、この業界は人手不足だあ…。