第30章 彼と共に彼を待つ
……怪我を治すのはいくらでも見られても良いのにね?呪いを祓うとも違う、同族……人間に対しての傷を付ける行為は、例え殺すための行為でなくても私は嫌だった。
しかも、今回コトリバコが関係する相手だから尚更。相手は呪物を作るために色々してきたんだ。最悪の事態も考えたよ、そういう呪物を扱うのだから術式かなんかで私のお腹の中の子になんらかの影響を与えるとか。呪いの影響を受けないって確証もないんだから。
そんな事が起こったら、海外にいる悟にどんな顔をすれば良いか分からない。
勝手に尋問を担当しました、相手に呪いを掛けられました、授かった子供は相手により生む事が出来ませんでした、とか。乙骨が側に居たって事もあり割と安心して仕方なく受けた任務を遂行出来たけれど。
……この件は伊地知も悪くないけれど。悟には絶対に相談しなきゃ。上層部が嫌いな悟には怒りのスイッチが入ってしまうかもしれないけれど。
私も悟と同じく見えない上層部への恨みを抱え始める中で乙骨は口を開く。その飲み物をひとくち飲んで斜め下をぼうっと見ている横顔を私は凝視した。
「僕も、呪術師になって始めは悪になりきれなかった。僕が呪術師となったのは去年、それまでは普通だったからハルカさんの気持ちが分かるよ。普通の人であったのに急にこの世界に入ったら色々と戸惑うよね…。
授業だって、普通の学校は体術なんてないもんね。ここは体を張って、命を張って生きていく世界なのだし」
『……そう、実感してるんですよ。特にこの界隈に入って何回も私、死にかけて…いや、実際に死んでるし……?普通に生きてる非術師だったら命を掛ける事なんて、特定の業種や裏社会の人間じゃないと分からないし』
うん、と即答する乙骨は頷いて、ズズ…、とひとくちカフェオレを飲んでる。
缶から口を離した後、私を横目にちら、と見た。
「五条先生に連れられてここに入ったんです、よね?それでハルカさんは呪術師になった、と」