第30章 彼と共に彼を待つ
「……拷問、割と楽しんでない?」
『えっ……まさか、そんなワケがワケワケですよ~…他人を傷付けるんですからね?あは、あはは…情報を引き出せるように尋問、頑張るぞー』
男の右手に残る最後の爪、小指の爪を剥がそうと私の中に覚えた"負"を流し込めば、右手から最後の爪がメリ…、と離れた。「ぐぅっ、」と堪えるような小さく呻く声を聞き、次は左手か、という所で乙骨から歯を食いしばる男を見下ろす。
見下ろしながらも"怒髪天"で伸ばし撚り合わせた、髪の細い束の先で落ちた五枚の爪を掬い上げ、くるりと巻きつけてはその爪をまだ固形物の入っていないバケツへと投げ入れていく。バケツの底面に落ちる小さなコトン、という音が聴こえた。
静かにドア前で撮影を続ける伊地知。乙骨がコツ、コツ、と数歩、拘束された男の真ん前に立ち無表情で、苦痛に顔を歪ませる男を見下ろしてる。
「痛がるだけでなかなか吐きませんね。ちまちまとした痛いのが好きなのならばずっとこうしていれば良いですけれど、ご希望でしたら僕がもっと痛めつける事も出来ますよ?」
片手をすっ…と、背の刀の柄へと伸ばす乙骨。
「手足を削ぐ事なんて容易ですよ。外側でなく内側が良いとおっしゃるならそちらで済ませます。いくらでも同じ痛みを味わう事を望むなら、何度でも治癒をして同じように痛めつける……。
それが嫌でしたらあなたの口からさっさと質問に答えて欲しいのですが?」
淡々と言う無表情の乙骨にさっきまでの私に対しての表情との違いに少し身震いした。空気もピリ、としていて、急激に空気が変わったせいかヤタベも硬直してる。
普段、気弱そうで優しげに見えた乙骨もこういう拷問もこなすのかなあ……。なーんか、慣れてらっしゃる。
威圧感を出す乙骨から拘束されずっと座りっぱなしで口を割らないヤタベを見た。口元が言葉を吐き出しそうな手前までもご…、と動いた所まで来ている。
もっと質問で攻めにいっとくか…。片手のメモをちら、と見て私達を見上げるヤタベを見下した。
『えーっと…。イッポウからチッポウまで、どこの誰に売ったか、職人さんならそういうの記憶してるんじゃない?話してくれない姿勢なら、爪じゃなく指を切り落としますよ?』
「……っ、」
「それからハッカイについてもです。これを作ったかどうかもあなたが吐くまで、僕や彼女で聞いていきますんで」