第30章 彼と共に彼を待つ
呪いを祓うとも怪我を治すとも違う、人間に対して痛めつけて情報を吐き出させるって事。痛めつけ、失いすぎて死に片足を突っ込めばこちらから生かし、また痛めつけて、耐えきれなくなる前に情報を聞き出す。
これを楽しい!生きがい!と感じれたらポジティブっていうか、ヤバイくらいに天職なんだけれども。
気分下げ下げな私に短く、呆れたような笑みを零した乙骨。まだ奥にあるであろう目的の部屋が見えない。例の場所はまだ遠い。
「……それが普通だと思うよ。ハルカさんはこの世界に来て一年も経って無いんだからそれが当たり前なんだと僕は思う。僕だってこの世界に入って二年も経ってない、非術師という立場だったから分かる。普通は壊れて(イカレて)いないんだから……」
カツ、カツ、カツ…、私と乙骨と伊地知靴の靴の音と、会話だけが長い通路で反響してる。その二種類以外の音はなく、静かで通路は非常に薄暗く、冬という事もあって凄く寒かった。呪いが見えるようになった見として、変なのは見えないから怖いってわけじゃないけどさ?
はあ、とため息をつくと口から白い息がもわ…と飛び出して消えていく。
『普通は、ね……。尋問に慣れて一年後には痛めつけんのタノシー!ヒャッハー!って豹変したらどうしよう…』
「……私としてはそれは天職ですね、とは思いますが…」
『伊地知さぁん??』
視線が泳ぐ伊地知。そうなった場合の空想の私に引いてんな…?
「それはそれで最高の尋問・拷問担当が見つかって良いねーってなるけど、僕としては引くかなあ…?」
『あ、やっぱ引きますよね~…私も引く!皆さんが引く、そんな展開にならないようにします、ハイ……』
想像上の未来の私よ、そうはならんからね?と世紀末だか女王様みたいな自分をかき消していれば、突き当りに見えてくるドア。いよいよだ、初めての尋問の時間。
耳元に「ゴジョ…」と囁く声がして振り向けども伊地知がびっくりして「ど、どうされました?」と聞いてくる。いや、この声ってか鳴き声は聞き覚えってか存在を朝以来忘れていたのだけれど。
肌身離さず、その存在を忘れても自らくっついてくる小さなボディガードが側にずっと居たんだった!
『うん……ヒャッハーしないようにするね、サトール』