第30章 彼と共に彼を待つ
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見張りが扉の両側に立っている。そこの見張りのひとりに伊地知が「お疲れ様です」と挨拶をして、相手の男も会釈を伊地知に返す中、扉の取っ手に手を掛ける伊地知。その先は薄暗く長い通路があって突き当りに目的の部屋があるのだと私は知っている。
重い扉をギィ……と軋ませて開け、私の背に触れる手。乙骨に「さあ、」と軽く背を押されて私と乙骨で先に進み、遅れて扉を締め、着いてくる伊地知。
呪詛師を隔離している場所へと移動しながらに、私は片手に携帯を持ち足を進めながら手の中のそれをじっと見た。
……こうなってしまった以上、今から電話をしたとしても。駄目と言っても止められない、彼は日本に居ないのだしすぐに帰れないのだから止める手段がない。画面上の電波も足を進めればどんどん悪くなり、時々圏外になる様子が見られた。
腹をくくるか。手のひらの携帯をしまって隣を歩く乙骨を見る。
まさかの助っ人の乙骨に感謝、なんだけど。急なのに良いのかな?と不安にもなった。確かにありがたいけれどさ?この件については悟の耳にも入る。誰かから言われずとも、彼が帰ってきたら直接話す。
隠し事なんてしない、これは隠すべき事なんかじゃない。多分この話は電話じゃ全ては伝わらないから対面で悟に話したほうが一番だと思うし。
そしたら乙骨も怒られる可能性もある。「どうして止めなかった!?」とか。もちろん、私に負担を掛けないようにって助けたからと悟から乙骨へ感謝もされるだろうけれど…。
『……いいんです?乙骨先輩。尋問の手助けしちゃって…』
ちら、と歩きながらに彼を見る。疲れからなのかいつもよりも濃い隈の顔でこちらを見る乙骨。そりゃあ任務終わってこれだもん、彼もゆっくり休みたいだろうに…。
「ああ…うん。大丈夫。耳にしてて知らんぷりは出来ないでしょ。世話になってる五条先生の大切な人であるハルカさんだし、お腹にも五条先生との赤ちゃん居るんだよね?それにピンポイントでコトリバコに関係する呪詛師が相手なら、ひとりで受けるなんて事があればいつもの結果を呼び寄せる事になるし……」
『……それ、遠回しに私が不幸とお友達してるって言ってません?』
「……あっ」
いつもの結果ってそういう事言いたいんやろ?とジト…と彼を見るとたちまち視線が泳ぎ、僅かに離れる乙骨は視線をそのまま私から反らす。