第30章 彼と共に彼を待つ
どうせ相手を拘束しているんだ、何も出来ないだろ、とかその動けない状態の呪詛師にならひとりでもいけるだとか、そう軽く思われていて、尋問に私ひとりだけで充てがわれてる。最悪の事態が起こらない可能性なんてゼロなハズがないのに。
私の日々の変化は私の体内で成長していく悟との子が引き起こしているもの。その成長の中で全く影響がない、なんて言えないじゃない。
どうしても責めるようになってしまってる私と、断れなかった伊地知。視界に入る事務の女性もハラハラしながらも、こちらを様子見してるけれど解決策なんて今は誰も持ってない。
……この強制と思われる指示を受けないのが一番なんだけど。
事務所でありながらキーボードの操作すらピタ、と止まった室内。パソコンの稼働している音くらいしか無い中でコツ、コツ…という足音が廊下から事務室へと近付いて来ている。
後ろを向けば乙骨。任務でも行って来たのか、片手には報告書を持っていた。その乙骨はじっと伊地知を見て報告書を真顔で差し出す。困った表情の伊地知は眼鏡を掛け直し、「はい、お疲れ様です」と受け取って、新しく事務作業が追加された現場を眺めていたら乙骨は私を見てから伊地知と視線を合わせていた。
「……廊下まで会話が聞こえましたけど。尋問の付き添い、僕が一緒に行きましょうか?」
「は……はいぃ!?」
いつから聞いていたん……?乙骨は私を見て、にこ、と笑った後に伊地知にも笑って「ね?」と提案をしている。
「僕なら特級呪術師かつ、もしもがあれば反転術式で回復が出来ます。僕が使えばどういったリスクを負うか未知数ですが"罰祟り"の再現も出来るとは思いますよ?ねえ、伊地知さん。良いでしょう?」
「し、しかし……い、いいのです、か?本当に?任務から帰ってきて今からすぐに、ですよ?」
躊躇う様子を見せない乙骨はひとつ頷き「ええ、構いませんよ」と言い切って笑っていた。