第30章 彼と共に彼を待つ
相手は非術師ではなく、呪詛師。私が何度死にかけてると思ってんの、今度こそふたりっきりの状態でそのアンラッキーポイント五倍ポイントデーキマって速攻死ぬわ、ハードラックとダンスって殺される自信がございますわ。
首をぶんぶんと振って『いやいやいや』と拒絶した。
『今度の今度こそ死にますって!私はマリオじゃないから99機の残機があるワケじゃないんですよ!?それに尋問する呪詛師ってピンポイントに金儲けに呪物作りをしてたって呪詛師なんですよね…?』
「はい…」
『いくら一年未満の新米の呪術師である私でも、非術師時代に耳にしてますからね!女子供というか、特に私が行ったら危ないやつじゃないですか!?
……"コトリバコ作りの呪詛師"…だなんて!』
伊地知には非は無い。伊地知自体は悪くない、彼に非は無いのに、性格上断りきれなかったせいでヘイトを集める立場になっているのは分かっちゃいるけれど。彼が上に断っても無駄で、私も伊地知に断っても無駄という事はこの尋問は強制なんだという事。
コトリバコ。怖い話として学生の時に聞いた話だったかな。
本当にそんな話あんの?と苦笑いしながら笑いあった休み時間の思い出。
呪術という非術師の知らない世界に入ってみればそれは実際にある呪物という事であり、高専の呪物保管庫にも幾つか呪いが漏れないように処理して保管はされてる。私は実際に直接その呪物を見たことはないけれど、モノクロの写真でテキストに少しだけ説明を添えられて載っていた。
その呪物を作る者が実際に居て、しかもその人物をこれからすぐに尋問をしろって指示が降りている。これまでの呪術師の任務の一部にも"特定の年齢以上の男性限定"の任務があった、という事は知ってる。
伊地知も自分の意志で伝えたいわけじゃないのだと悲痛な表情でこちらを見た。
「私も断りました、断りました、けれど……っ!」
『うん……いくら断っても上の意志は変わらなかったんですよね……』
「……はい」