第30章 彼と共に彼を待つ
「……特別な一族出身なんだよ、ハルカは。
悟も五条家だしね、どっちの力を継承しようとも喉から手が出る程に、まだ人間の悪意も作為も何も知らないまっさらな子供は欲しいって思うものなんだだろ。それこそ、生まれてきた子を白にも黒にも出来るんだから。
もちろん、彼女の一族では生まれてくるのが女の子であれば確実に呪術が継承される…男の子でも六道眼持ちでなくとも悟の血を継ぐから無下限呪術を継承する可能性が大いにある。つまりは性別関係なく狙われるに等しいんだ」
「……あの、夏油さま。五条悟は分かりますけど…、ハルカさんって…」
きょろ、と視線を周囲に向けた傑は少し前かがみになり、彼女らにぼそ、と呟く。ギリギリ私にも聴こえた、"春日の一族だよ"という言葉。
今まで言う機会がなかったのか、秘密にしてたのか。ふたりはきょとんとしていて、傑は暫く考えてフフッ、と笑って。
「一族の人間が少なすぎて今の若い子らには馴染みが無いだろうけれど。呪術高専だと座学では五条・禪院・加茂の御三家などと一緒に必ず触れる歴史上の一族のひとつだよ。もっともふたりは一般校だから知らなくても無理はないか。
……彼女は端的に言うならば怪我を治す事に長けている家出身だね。他にも色々特殊な方向で得意分野があるんだけれど……非術師や呪術師達と契約制で成り立ってた一族といえば良いのかな?それで重宝された一族であるとテキストに載っていたんだ」
「へー…」
「でも、もうその一族はハルカで最後なんだよ。多くは治す際に致命傷を身代わりにうけて契約者の代わりに死んでいっている。今後、その一族はハルカからしか生まれることしか出来ない。しかも、女系継承だ。だから術師や猿共の一部のロクデナシにハルカは狙われてるんだ……」
声を小さくしてふたりに説明するその奥から、注文したものを両手に持った店員がこちらに向かって来ているのが見える。
ただ一言、傑は「彼女や生まれてくる子は常に危険なのは変わりないんだ」と、その話はここで終わってしまった。
空気を切り替えるように店員が持ってきた食材で「さあ、食べようか!奢りだから遠慮なくおかわりするんだよ!」とすしざんまいしながらの傑の掛け声。
程々にして欲しいけどさ…。でも、久しぶりの賑やかな食事なんだって楽しくて、少し調子にのって食べすぎてしまった。