第30章 彼と共に彼を待つ
触れずにただ視線が腹部を見てる傑。私は彼の言葉に小さく頷いた。まさかこんな状態で映像で判別出来ないでしょ、見つかったのはミリ単位のものなんだから。
『そりゃあすごく小さいですもん……あの後調べたら性別が分かるのってもっと先の事ですね、まだごま塩程度の状態ですし……』
「ごまの方?塩の方?」
『えっ…いや例えなんですけど……多分、塩の方…?』
あの時から数日経った今はどれくらいの大きさになってるんだろう?ちょっとは大きくなったのかな、それともまだあの状態なのかな…?
人体の神秘、兄夫婦の子を抱っこした時を思い出す。あれは最終形態ってか出てきた状態、生まれて少し経過してるとはいえ、あれよりは少し小さめなサイズまでは私の中で育てられるって事なんだよね……。大きいよね、あの大きさと重さと元気な様子を考えれば人が人を増やす自然な摂理が凄いって思う。
……そっか、私もあの重さの子を産むんだ…。
母はあまりつわりが酷くなかったけれど、兄嫁……、姉さんはつわりが酷かったと聞いてる。私はこの先軽く済むのか酷い方なのかは分からないけれど、ひとつ言える事はしっかりと食べられる時に食べないとねって事!
サトールが大人しいのを確認して、大きめな頭をぐりぐりと撫でつつ傑を見上げる。その傑は首を傾げて「ん?」と微笑んだ。
『性別がどっちであろうとも、狙われるんだろうっていうのは変わりませんよ』
「……そうか。君は覚悟はしてるんだね」
直に私がカワグチ組に拉致されて売られて行く所を目撃してるから、傑も心配してるのは分かる。もしも授かったのが女の子じゃなくても、男の子であればきっと五条を継ぐもの。それはそれで狙われる。
悟から受け取ったものが私の中に流れてる長年の呪いの血が他人からみたら相当価値があるものである、というのは分かってる。
……私からみたら、"悟との子"というただの家族であるのにね。悟もそう思ってくれていたなら嬉しいんだけど。
『覚悟するもなにも避けられないですし。私や悟狙いもそうですけど、どっちかの血を目当てってのもあるんじゃないですかね?』
ふっ、と口元が笑えば、「どういう事です?」と菜々子が聞く。小さな声量で傑は彼女達に言った。ここにもその手の人が居るかもしれないから。周囲は賑やかだし、鉄板料理故に調理音やヘラで食材を細かく刻む音で聴こえないとは思うけれど。