第30章 彼と共に彼を待つ
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傑が運転をし、駅のロータリーで徐行運転をしながら迎えを待つ人達の顔をひとりひとり首を伸ばし覗き込む傑。しばらくそうしていれば口元に笑みを浮かべて「おっ、居た」と呟き、停車すれば駅から駆けてくる女子がふたり。そのふたりは手を振ってこっちへと掛けより、ガチャ、と開けた後部座席からは元気な女の子の第一声。
「夏油さまおそーい!」
「はは、すまないね、ちょっと渋滞に巻き込まれて。後ろ荷物あるけど頑張ってふたり乗ってくれるかな?」
助手席から後ろを振り返り、金髪の子と目があって軽く会釈すると、もうひとつのドアからガチャ、と黒髪の子が入ってくる。
「どうもでーす!今日、ゴチになりまーす!」
「お腹すいたー、早く行こ行こっ」
ふたりが乗り込みドアが締まると、後ろを振り返った傑がふたりに向かって一言「何食べたい?」
その言葉に明るい顔をしたふたりは口々にステーキ、ハンバーグ、お寿司、うなぎ、デミオムライスと選択肢を広げて最終的に決まった店舗へと傑は車を走らせる。それは駅からあまり離れていない店舗でロータリーから目に入ったから、という理由かもしれないけれど。
「いらっしゃいませ、ぽんぽこぽん!」という掛け声をされて案内された私達4人。
掘りごたつ式の席へ奥に私、隣に傑。私の前に黒髪の子、その隣には金髪の子。ふたりはきゃぴきゃぴと楽しそうにしつつ時々こちらを見ていた。
駅でふたりを回収した時にこの店舗に着くまでの短い間に軽く自己紹介をしたのだけれど。目の前の黒髪の子は美々子 金髪の子は菜々子。高校生くらい…だと思う。制服も着てるし。
その制服はカスタム自由とはいえ呪術高専とは大きく異なるもの。呪術師である彼女達は高専ではなく、非術師の学校に通っているんだ、本人達の意思で……。
にこにことした傑がメニューを開き、熱を持った鉄板に気を付けながらこちら側にそのメニュー表を置いた。
「ハルカはどれならいけそう?」
『え、えーっと…基本なんでもイケるけど、魚介責めは…今は大丈夫でも、焼いてる時とか匂いがすごいやつだと後からだんだんとクるんで……でも、この辺りのメニューならまあイケるかな?』
「あー…じゃあイカ辺りはまずいかな…匂いが強そうだしね。つわりって大変だね、硝子も人それぞれとは言ってたけれど……じゃあ、この辺りはどう?」