第30章 彼と共に彼を待つ
サトールは正常だ、だけど本人を前にして不審者なんて単語を口に出したらバッドエンドだわ。
ふふ、と隣で笑う彼は何かを企ててるような笑顔がちょっと恐ろしい。
「そうだ、やっぱり君の提案通り食事に行こうか」
『急な心変わり!い、いいんです?傑パッパ……お子さん…』
お子さん?うん…まあ、お子さんなんだろう…とまだ見ぬ姉妹を考えてみる。傑はにこにこしながら自身の携帯を取り出していた。
「うちの子らも君にご馳走して貰おうっと!」
『えー?しょうがないですねー』
……まあ、良いんだけれど。ひとり部屋で用意して食べるよりは外で人と食べたほうが良いし。そんなに高いレストランだとか料亭じゃなければ大丈夫だよ……?
少しご機嫌な傑はさくさくと携帯を操作し、耳に当ててる。数秒後に「あ、」と柔らかい表情をしてここからは見えないだろう、彼の家族への言葉を私は車内で聞いていた。
ちなみに車は暖機運転はしてるからいつでも発車出来る状態にはなっている。相手との会話がスムーズになるように傑は温風の強さを弱めながら、その家族に「今、大丈夫かな」と続けた。
「ああ、私だよ。ふたりとも今はどこに居るんだい?……そうか、うん……実はね、私の知り合いがご飯をご馳走してくれるっていうんだけど…、ははっ!もちろんふたりもだよ?
じゃあ駅に居て。迎えに行くからそこで合流しよう」
携帯をしまった後にハンドルを握る傑。「じゃ、行こうか」とシートベルトをしたのを見て私も同じくシートベルトを締めると、それを確認した傑はギアを変え、恐らくは会話通りの駅へと出発した。