第30章 彼と共に彼を待つ
284.
呪骸のサトールとの生活はそれはもう、退屈のない日々の始まりで。悟が居ない状態じゃ寂しかっただろうに、20センチほどの背丈の呪骸のお陰様で退屈がかなり減ってると思う。
学長が言うにある程度は命令に従うと言ってたけれど、初回から命令よりも悪戯を取ったサトール。そんな悪戯好きな彼を連れ帰り、部屋へと戻るととりあえずまたも言うことを聞かずにロボロフスキーハムスターの如く部屋の中を爆走していた。大きさが大きさだから、昔兄が持ってたミニ四駆を思い出す。四輪駆動ってか四足歩行だけど。めっちゃ早いな、サトール…。
そして部屋という自由の中で掃除が行き届いてない、と言いたいのか、埃を見つけると顔面にわざわざ着けて二本足で立ち上がり、くいくい、と私の服を引っ張る。そして汚い所を案内する。指示だけルンバ機能か?これはよお……。
私が食事をしてる時は彼はじーっと見てるだけ。
彼は食べ物を必死としない。ほんの僅かに私に触れている間、活動用の呪力は吸い取られるらしいけれど。
じゃあなんで見てるんだろう?って思って実験的にフォークに突き刺したブロッコリーを食べようとした瞬間顔を上げたから口元へと近付けたら顔を背ける。野菜嫌いか?と食事から肉を探し、ハムを近付けてみたけれどぷいっ、と顔を背けて。もしかして悟がモデルだとしたら……、とプリン・ア・ラ・モードをスプーンにひとすくいしてそっと近付けて見る。ほら、甘いの好きだろ~?……これもやっぱりペリンから顔を背けた。
……興味だけはあるのかな?若干食べ物を与えたらグレムリンみたいな展開にならないか心配はあったけれど食後に学長に『サトールが食べ物に興味を示すんですけれど…』と相談をしたら、少しの間。
「……悟がモチーフだからな。おそらくはハルカが食べ物を食べてる様子を見て引いてるんだろう…」との事だった。
……お前、引いて見てたの~?床を8の字でカサカサ動くサトールを見てそういう悟らしい所引き継ぐなと思いつつ。
サトールとの生活で、私がお風呂に入った後、彼も綺麗さっぱりしたいのか自身の汚れを取れ、とコロコロローラーの周りで跳ねていたりする。そして寝る時は布団に潜り込む。人の生活に寄り添う、やたらと自己主張の激しいペットのような呪骸、サトール。
なるほど、悟が居ない寂しさはこの呪骸を構っていれば癒やされるかも。
