第30章 彼と共に彼を待つ
しゅるしゅると式髪を召喚してはバリケードの隙間を狭くしてサトールが攻め入らないようにする。バリケード前のサトールは覚束ない動きは可愛いままに、のそ…と立ち上がってぐりぐりと頭を隙間から入らないか試していた。
『……!……っ!?』
やめてやめてやめて怖いからちょっと、うわ、ファンシーフェイスが見上げてるんだけどっ!
恐怖に小刻みに左右へ首を振る私。いつからホラー展開に入ったのかなー!?
「……学長、こんな様子じゃあハルカは呪骸を連れ回しませんよ」
「昆虫型じゃないんだがな……ハルカ、良い機会だ。サトールに命じろ、悟と同じくハルカに対しては多少の命令は聞くだろう」
可愛い顔して恐怖を煽ってくるのに命じれます?と半信半疑になりながらもバリケードの外で顔の全てが入らず苦戦するサトールをじっと見る。きっと内蔵された携帯のおかげで侵入出来ないんだ、ざまあみろ!
彼(?)はにこ、とした刺繍の表情を変えずに見上げてる。
『……サトール君。緊急時以外はさっきみたいな、手足でカサカサ移動は止めてね……?出来るかな?』
刺繍された可愛らしい瞳でじっと見たままに向こう側に顔を引っ込めてから頭をこくん、と揺らして頷くサトール。
おお、素直だ…!恐怖から一転、初期の気持ちになる……可愛い!
するすると自身が小さな彼に対して距離を取ろうとしていたバリケードを解いていく。
すると突然にカサカサと注意したにも関わらず高速移動をするサトール。
『アバチャっ』
ガタッ、とバランスを崩しかけ仰け反って壁に背を預ける私の、驚く足元にしがみつくサトール。
この様子を硝子は「ははは、」と笑っていた。いや、笑ってないで止めて下さいよっ!
見上げたサトールの表情は一切変わっちゃいないけれど、デザインの元が悟って事もあり簡単にはいかないみたいで。モデルが悟なら彼にやはり似たのだと知らしめた呪骸との出会いだった。