第2章 視界から呪いへの鎹
『うーわ…』
「おう、お帰り、ハルカ!」
「おっ帰り~、道草食っちゃ駄目じゃん、まっすぐ帰りなさいよ」
玄関で凍りつく。自動的に重さでドアが背後でガチャン、と閉まった。
なんで……なんで家に…
『なんで家に悟さん居るのっ!?』
「やあ、先回りしちゃった☆」
『先回りしちゃった、じゃないっ!』
片手で、自身の頭を軽く叩いて、てへっ、と言う男に叫ぶ。
あれほど気を付けて帰ったというのに自宅を特定した挙げ句上がりこんで、まさか父と談話してるとは思うわけがないでしょ。
危険な香りのする男だと、そしてこれから夕飯時であるという事。したがって私は悟を帰ってもらうことにした。
「へー、じゃあハルカちゃんその時犬にかじられたんだー?」
「そうそう、ったく犬にそうもちょっかいすっからよぉ~」
「ハハッ、おっちょこちょい!」
『……』
放っておけば父がべらべらと何か情報を垂れ流してしまう。幼少期の犬に噛まれた話をされてるのが聞こえるし。あのデコ助サイヤ人め。
靴を揃えて脱ぎ、上がってつかつかと男ふたり居る場所に向かう。
父は悟をもてなした様で、テーブルには戸棚のクッキーや、2Lペットボトルの紅茶、注がれたグラス。どかっと椅子に座っているふたりのうち、片方の服を掴んで立たせる(といっても補助という方が良いかもだけれど)
悟は椅子から立ち上がった。
「お話の続きはキミの部屋で良いかな?」
『いいや!今日はお帰り下さい!』
玄関方面に両手でぐいぐいと押すもなかなか進まない。この人2mくらいあるんじゃないの?でかい分体がしっかりとしている。
抵抗されているというよりも、遊ばれている感。変に父が笑って見ている。短時間で良くゴリラを手中に収めたな…この人!
「押さない、押さない」
『か・え・れ』
「あっ、部屋こっち?」
振り向いて、サングラスの脇から覗く、その綺麗な瞳が細められて私を覗く。
指先はピンポイントに部屋のある二階の階段。私は階段と悟を見比べて玄関方面に更に強めに押した。
『玄関はこっちだからっ!』
「ほー、じゃあ二階行っちゃえ!」
『わーっ洗濯物あるから止めてっマジ止めてっ!』
ドッドッド、と数段駆け上がったその黒装束の服を掴めば、みょーん、と伸びる。背中が見えると黒に映えてより白く見えた。